1(1/2)



レイニーはシェリダン夫人に見送られてホグワーツ行きの汽車に乗り込んだ。重いトランクを引きずりながら空きのあるコンパートメントを探すが、どこもいっぱいでレイニーはすでにヘトヘトだった。知らない顔ばかりで不安な中コンパートメントをひとつひとつを回るなんて心が折れそうだ。

「やあ、レイニー。探したよ」

聞きなれた声にふり返るとドラコが青白い肌をわずかに赤くしながら微笑んでいた。見慣れた幼なじみの顔につい安堵の表情を浮かべてしまう。それを気づかれたくなくて慌ててムスッとした表情を作る。

「君の席はとってある。こっちだ」
「ありがとう。でも自分で探せるわ」

レイニーはダイアゴン横丁でのことを未だに根に持っていた。ドラコは眉をぴくりと動かしたが、「そうかい」と機嫌を悪くしてレイニーから離れて行った。
レイニーがため息をついてトランクの取っ手を握り直すと、汽車が動き始めた。ぐらりとバランスを崩し片足を後ろに引くと、背中が誰かにぶつかった。両肩を支えられ、レイニーは尻餅をつかずに済んだ。

「大丈夫?」

頭上から声が聞こえてレイニーは慌てて振り返った。見上げると背の高いハンサムな男の子が人の良さそうな笑顔を浮かべていた。レイニーは灰色の瞳に見つめられて、顔が熱くなるのを感じた。

「手伝うよ」

男の子はレイニーのトランクを軽々と持ち上げると「席はどこ?」ときいた。

「あ…空いてるところがなくて…」

レイニーは急に恥ずかしくなって小さな声で答えた。男の子は優しげに目を細めた。

「それなら僕のところに―――」
「レイニー?」

見るとコンパートメントの扉に手をかけながらハリーが顔を出していた。

「ハリー!」
「声がしたからもしかしてと思って。よかったらおいでよ」

レイニーがほっと胸をなで下ろすと、ハンサムな男の子がレイニーの肩を優しく叩いて「よかったね」と言った。レイニーは小さく頷いた。男の子はレイニーのトランクをハリーがいるコンパートメントまで運んでくれた。

「あの、どうもありがとう」
「どういたしまして。それじゃあまたね」

ハンサムな男の子はにこっと笑って去っていった。レイニーはなんだかふわふわした気持ちでその背中を見ていた。
コンパートメントには赤毛の男の子も座っていた。レイニーはおぼつかない足取りでハリーの隣に座った。向かいに座っている赤毛の男の子は食い入るようにレイニーの顔を見つめた。レイニーが不思議に思いながら首を傾げると、我に返ったのかそばかすだらけの顔を少しだけ赤くして目をきょろきょろさせた。

「レイニー、彼はロンって言うんだ」

ハリーが赤毛の男の子を紹介してくれた。

「私はレイニー・シェリダン。よろしく、ロン」
「あ、うん。よろしく…え?今、シェリダンって言った?」

ロンは急に顔色を変えて、レイニーに聞き返した。レイニーは表情を変えないようにして言った。

「言ったわ」
「本当にあのシェリダン?」

マグルの中で育ったハリーには意味がわからないらしく、説明を求めるような視線をロンとレイニーに交互に向けた。レイニーのファミリーネームを聞いて良くない顔をする人もいるということはシェリダン夫人から聞いていたが、いざ目の前でこういう反応をされるとショックだった。
12時を過ぎた頃、車内販売が来たのでレイニーは大好きなかぼちゃパイを買った。マグル育ちのハリーにはどれも珍しいらしく、たくさんの買い物をしていた。ハリーは特に蛙チョコレートについている有名魔女・魔法使いカードの写真が動くことに驚いていた。マグルの世界の写真は動かないらしい。ちなみにカードは『アルバス・ダンブルドア』だったのだが、ハリーは彼のことも知らなかった。

「絵も動かないの?」
「動かないよ。テレビはちゃんと動くけどね」
「てれび?」
「え?テレビないの?」

マグルの世界にはテレビというものがあって、ハリーの説明によると四角い箱のような形をしていて、その中で絵が動いているらしい。どういうものなのかいまいちぴんとこなかったが、マグル界には魔法界にはない不思議なものが色々あるようだ。レイニーが興味深々でハリーの話を聞いていると、コンパートメントをだれかがノックした。





20160109
*前次#

BACK
ALICE+