過去と忍びと今とヒーロー
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  • 十話

    さて、ヒーロー科に入ったといっても特に変わったことはあまりない。しいていえば戦闘訓練があることぐらいか?

    初日の一件から妙に爆豪が睨んでくるがたいした害はないのでほっておく。
    それを除けば勉強はむしろ前にいっていたところの方が難しいので問題はなかった。


    そしてやってきたヒーロー基礎学。
    どうやら今日はレスキュー訓練のようだ。
    皆がうきうきしながらコスチュームに着替えているのを横目に、私は体育着を着た。


    「あれ?浅間さんはコスチュームないの?」
    「転入が決まって間がないからね。まだ申請中だよ」
    「そうなん?でもちゃんと要望書かなきゃこうなっちゃうから、気を付けた方がいいよ」

    恥ずかしそうに頬をかきながら笑う麗日のコスチュームはピチピチで体のラインがはっきりと出ているものだった。

    「ん。わかった」





    外に出るとバスの前で飯田が笛を吹きながら並ばせようとしているが、あのバスの種類では並び方が違うんじゃないのか?


    最後の方に乗ると、既に席は埋まっており空いているのは赤白のやつと相澤先生の隣だ。
    特に何も考えず赤白の隣に行こうと先生の前を通ると、いきなり腕をひかれた。


    「………なんですか」
    「お前には前もって説明することがある」


    そういって隣に座るように言われ、断る理由もないので座ったが内心はめんどくさかった。


    「今回はレスキュー訓練だが、お前は初めての訓練だ。それにコスチュームもまだないからな。今日のところは見学だけにする」
    「わかりました」
    「だがそれだけだと時間の無駄だからな。手伝いを頼みたい」
    「浅間さん!浅間さんの個性は何ー!」


    軽い説明を聞いていると、いきなり後ろから話かけられた。
    それに一瞬だけ眉を潜めたが、すぐにいつもの無表情になると上半身を捻って後ろを振り向くと、ほとんどのやつがこちらを見ていた。


    …………めんどうだな。


    「影。それが私の個性だよ」
    「へぇ〜。それって常闇君みたいなの?」
    「………その常闇君の個性を知らないからなんとも言えない」


    それだけ言うと体を元に戻し、相澤先生に向き直る。
    後ろでは私の個性について考察が飛び交っていたが、すぐに別の話題になった




    ____________________


    「超人社会は個性≠フ使用を資格制にし、厳しく規制することで一見成り立っている様に見える。けれど少し力加減を間違えれば、一歩間違えれば容易に人を殺せるいきすぎた個性≠個々が持っていることを忘れてはなりません。
    相澤先生の体力テストでは自分の力が秘めている可能性を、オールマイトの対人戦闘ではそれを人に向ける危うさを。それぞれが体験したと思います。
    この授業では……心機一転! 人命の為に個性≠どう活用するかを学んでいきましょう。君たちの力は人を傷つける為にあるのではない、救ける為にあるのだと心得て帰って下さいな」


    13号先生の小言が終わると、一斉に拍手喝采。クラスメイト達は皆感極まっていた。

    確かに。そう考えると今の世はとても微妙なバランスの上に成り立っていると言っても過言ではないんだな。
    【平和は法によって守られ、法は理性によって守られる】
    誰かがそんなことを言っていたような気もするけど、まさにそうだ。個性の使用を禁止しているとはいえ皆日常生活で些細なことには使っている。それを理性によって悪用しないだけだ。言ってしまえば、この世に生を受けた全員が武器を持っているんだ。そして、『悪』の心を持たない人間なんていない。
    今、誰かがこのバランスを崩してしまえば、きっと大変なことになってしまうだろうね。


    そんなことを考えていたその時。

    転生してからまったく感じなかった、懐かしくどこか心地のいい殺気が襲った。

    その出処に目を向けるが、特に何も異常はない。けれど私の感は確かに何かあると言っている。
    そして、相澤先生が授業を始めようと口を開いた瞬間。



    黒いモヤが出現する。



    そこから出てくるのは、まさに悪意。


    「あれは__ヴィランだ!」


    相澤先生が言った言葉を聞くと、クラスメイト達はザワつくがすぐに戦闘態勢に入った先生が敵のど真ん中に突撃していく。
    13号先生が避難するよう言っており、私はその言葉に素直に従おうとする。
    けれど相澤先生を横目に見ながら、あれでは長続きしないな、と思った。


    相澤先生はあきらかに無理をしている。
    あそこにいるほとんどは有象無象で大丈夫かもしれないけど、その後にいる2人。あれはダメだ。特に脳みそが出てるあいつ。アレはヤバい。







    「もしかしたら、死んじゃうかもしれないな」





    ポツリ。




    相澤先生に向けて言った私の呟きは、黒いモヤに飲み込まれて誰にも聞こえることは無かった。









    (彼が死んでも別に支障はない)



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