過去と忍びと今とヒーロー
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  • 十二話



    思っていた以上に意味がなかった。



    格下とはいえ侮ってはいけないので、そこそこの強さで相手したけど弱すぎだろ。こいつら。

    最初の一蹴りで周りにいたやつらを吹き飛ばし、残っていた奴らに向かって殺気と共に笑顔を向けてやった。そしたら物凄いビビっちゃって。
    その後はなんの意味もない。
    たまにヤケクソで向かってくるやつはいたけと、他は怯えて戦いになんてならなかった。
    全体を通しての感想が冒頭の言葉だ。

    最初に思っていたとおり個性を持て余したただのチンピラだった。つまらない。折角なんだからもう少し骨のあるやつがいればよかった。


    最後のひとりの腹に回し蹴りを放ち、崩れ落ちる相手には一瞥もしないまま視線は広場の方に向かう。


    さっき凄い音がしたから何かあったんだろう。黒いモヤに包まれてここに飛ばされたから、他のやつらも別の場所に飛ばされているはず。ならさっきの音は先生に何かあったのかな?
    飛ばされる直前に言っていたとおりに、相手の狙いがオールマイトなら誘き出すために何かしているだろうし、あの人数と先生の個性なら十中八九良くて重傷、悪くて死んでるかもしれない。
    でもまあ、他のやつらもヒーロー志望だからそれぞれヴィランを倒したら広場に集まるだろうし、先生がピンチなら助けようともするかもしれない。こいつらみたいなレベルなら大丈夫だろうけど、あの二人は駄目だろうな。先生でさえ無理なんだ。ひよっこのあいつらじゃ確実に犬死に。
    これは先生だけじゃなくて他の生徒も重傷かもしれない。


    「あー………めんどくさ」


    とりあえず広場に行こう。
    ゆっくりでも急いできたんだよ程度の速さで走って、うまいこと諸々が片付いたあたりに出ていこう。




    ___________________



    広場について最初に見えた光景に、予想通りすぎて思わずつきそうになったため息を飲み込んた。唯一予想外だったのはオールマイトがここにいたことだ。

    ここから出入口の方にいるやつらの元に向かうには戦闘してるところをつっきんなきゃいけないので仕方なく端の方に固まってる少人数の奴らの方に寄った。


    「あ!浅間さん大丈夫だった!?」
    「問題ないよ。それより、凄いね」


    オールマイトと脳が剥き出しのヴィランとの戦闘を見ながら心配の言葉をかけてきた緑谷に適当に返事をし、呟くように零す。
    オールマイトは知っている。何せナンバーワンヒーローだ。けれど実際にこの目でその活躍を見たことはなく、今初めて見る彼の戦闘に純粋に憧れる。と同時にとてつもなく恐ろしかった。


    彼は、ただ守るためだけにあそこまで強くなった。
    生きるためではない。自分のためではない。
    ただただ他人のため"だけ"に。
    あんなにも傷つこうと、お構い無し。
    それを当然と思い何の疑いもなく行動する人間に、私は会ったことがなかった。
    だからこそ、あの強さに憧れると同時に恐怖を感じる。



    そうこうしているうちに、彼らの殴り合いはオールマイトが脳みそヴィランをドームの外に殴り飛ばすことで決着をつけた。

    手のヴィランはどうやらオールマイトに気おとされたようだ。だけど仕方が無い。今のオールマイトの殺気は私だって滅多に感じたことが無いほどのものだ。
    いや、殺気じゃない。
    あれがナンバーワンヒーローとしての威圧感。それだけで敵の戦意をくじく。本当に凄いな。
    だけど。


    (どうやら限界みたいだ)


    煙で良く見えないけど、オールマイトの体は小刻みに震えている。あのまま制圧してしまえばいいのにそれをしないのは、しないのではなく出来ないからだろう。


    (馬鹿だな。自分の限界も把握せずに無計画に突っ込むからだ)


    ヒーローとしては生徒を助ける為に仕方がないのかもしれない。けれど敵はやつ1人だけじゃない。たった1人を片付けるのに全力を出し切ってしまえば本末転倒だろ。


    「浅間!ここにいても邪魔だろお前も行こうぜ!」
    「うん。そうだね」


    まあ妥当な判断だろう。

    既に歩き出した彼らを追うように踵を返すと、ふと、ブツブツと唱えている緑谷が目に付いた。


    「………僕だけが、知ってるんだ__オールマイトは恐らく限界を超えてしまっている……モヤに翻弄されればきっと」


    ……ああ。そういえばこいつもオールマイトが限界だと気がついていたな。


    モヤがオールマイトに襲いかかった瞬間。もうそこに緑谷はいなかった。


    (足が折れている。なんて無鉄砲だ)


    モヤから手のヴィランの腕が現れ、緑谷に触れそうになったその時。1発の弾丸が貫いた。



    「1-Aクラス委員長飯田天哉!ただいま戻りました!!」


    その声に振り向くと、出口には雄英の教師が勢ぞろい。














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    こうして、襲撃事件は幕を下ろした。
    怪我人は相澤先生と緑谷のみ。

    だけどどちらも自業自得だろう。しなくてもいい責任を背負って勝てるはずもない勝負に出たんだ。それで命があるのだから儲けものだろ。




    先生達が来て、ヴィラン共が去った後。
    土煙の中に見たこともない男性がいた。その代わりのようにオールマイトの姿が消え、セメントスが切島に見られないようにするかのように壁を作っていたから、きっとあれはオールマイトなんだろう。
    気にはなるけど、害にならないのなら別にしらべなくてもいいだろう。












    相澤先生も、緑谷も、オールマイトも。

    あんなになるまで戦うなんて。











    「つくづくヒーローってやつは理解出来ない。」


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