十五話
最初は歩きだった。けれどなにかに急かされるようにそれはだんだんと駆け足になっていき、最後は走り出していた。
「はぁ……はぁ」
決して息切れをする距離を走っているわけでも、全速力で走っているわけでもない。
だけど、妙な胸騒ぎのせいで、自然と動悸が速まる。
早く、速く。もっと速く。速くつかなければ。早く行かなければ。早く、速く。速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く!!!!
速く行かなければ____
また間に合わない!!!
?間に合わない?
何故?
何故そう思う?
間に合わなくて困る相手なんて、もういないはずだ。
何がなんだか分からない。でもとにかく早く行かなければいけない。
そうしなければ、私はまた後悔してしまう。
明確な根拠もなにもなく。
ただただ直感のまま走り続ける。
***
ついたところは、予想通り火事だった。
そこは児童養護施設だったようで、えらく敷地面積が広い。周りには野次馬連中が大勢いた。ヒーローは、まだついていなかった。
乱れた息を整えながら、視線は自然と何かを探すようにさ迷わせる。
いない。違う。いない。違う。いない。
一通り周りを見ると、あれだけ混乱していた思考が落ち着き、冷静になっていく。
そうだ。何を勘違いしていたんだ。何が後悔していしまうだ。そんなものない。そんなもの、もういないんだ。
別に期待していたわけでもないのに、なぜだか妙に泣きそうになる。それを堪えるためなのか、自然と項垂れ見えるのは自分のつま先だけ。
嗚呼痛い。胸が張り裂けそうなほど痛い。いないことなんてとっくのとうに理解しているはずなのに、それでもまだ諦めきれないんだ。あいつらもこの時代に生まれ落ちて、どこかに生きているのだと信じているんだ。
「___っ、」
その時、聞こえるはずのない声が聞こえ、目を見開いて勢いよく顔をあげる。
「っ___!」
そんなはずはない。そんなことがあるはずがない。
それでも、その声を彼女が聞き間違えるはずはなかった。
考えることもなく、気が付いたら周りが止めるのも構わずに燃え盛る建物の中に走っていた。
「ゲホッ、」
予想以上に炎が回っており、少し煙を吸ってしまった。早いところ出なければ建物がもたない。それでも炎を気にもとめず、ただ足が進む方向に歩いていく。
そして、その先には___。
「庄………っ!」
炎に囲まれ、倒れている愛しい後輩の姿。
(暗闇に落ちる私の光は、いつだって君達だった)