過去と忍びと今とヒーロー
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  • 二十四話

    放送室に行くと先生が壁に背を預けて待っていた。

    「遅い」
    「なんで廊下で待っているんですか」

    わざわざ廊下で待っている意味がわからず問いかけるが相手は答えない。チラッと手を繋いでいる庄左ヱ門に視線をよこした。

    「で、何の用ですか?」
    「………どうした?」
    「聞いているのはこちらなのですが……」

    てっきり何か用事があって呼び出したと思っていたので、この反応にどうしたらいいのか困る。すると繋いでいた手の力が強まり、どうしたのかと下を見ると、庄左ヱ門が先生を睨んでいた。一見すると笑っているように見えるが、その目は一切笑っていないしどことなく空気が冷たい。

    「悪かったな。折角の体育祭に出られなくて」
    「え……?、ああはい。別に構いませんよ。元からやる気もありませんし」
    「だが他の奴らとのあれやこれやもあるだろ」
    「いやどうでもいいです」
    「…………お前、なんか性格違わないか?」
    「少ししか被っていなかった猫を捨ててきただけですよ。庄もいるしもう関係ないんで。ねぇ庄〜」
    「はい!先輩には僕がいますから他の人はいなくても大丈夫です!」

    庄左ヱ門に話をふると、とても可愛らしい満面の笑みで見上げて答えてくれた。
    うん。もう周りがどんな評価するとかどうでもいいしね。先生相手に猫被るのも疲れたし。

    「というか、解説役がこんなところにいていいんですか?」
    「マイクがいるから問題ねぇだろ」
    「マイクさん一人に任せるのは駄目ですよ?ご自分のお仕事は責任を持たないと」

    先生と話しているとそれまで黙っていた庄左ヱ門が突然口を出し始めた。いやそれはいいんだけど、何だか喧嘩腰じゃない?

    「元々俺がいる意味がなかったんだ。サボりじゃねぇよ」
    「ですが一度任されたのでしょう?それを放棄するのは大人としてどうなのでしょうか。先輩と話をする暇などないと思いますが」
    「こいつの出場取り止めはこちらの都合だ。それで何かあるかと気にかけるのは大事なんだよ」
    「それを貴方がやる必要があるので?」
    「俺はこいつの担任だ」
    「たまたま担任になっただけのことでしょう。それに貴方は怪我をしている。大人しく治すべきでは?」
    「………おい浅間。なんだこいつは」

    子供らしからぬ言葉を口にする庄左ヱ門にきちんと言葉を返していたが、刺々しい態度にこちらを見る先生。

    「私の可愛い後輩です」
    「そういう意味じゃねぇよ」

    それ以外になんと言えばいいんだ。

    「観客席でグダグダやってたからな、やっぱり不満なのかと思ったんだ」
    「あれは、……別に不満という訳ではありません。ただ早いところ帰りたかっただけです」
    「そりゃなんでだ」
    「それは「僕の入れたお茶を飲んでまったりしたかったんですよ」庄のお茶は絶品ですから」

    ずいっと私の前に出てきて先生に立ち塞がるように立つ庄左ヱ門に少しだけ驚くが、まあ本当のことだと言葉を続ける。
    ニコニコと笑い続ける庄左ヱ門と、そんな庄左ヱ門をじっと感情の読めない目で見つめ続ける先生。まったく状況が分からず首を傾げるしかないが、庄左ヱ門に手を引かれて意識がそちらにいく。

    「では先輩の確認はできましたし、もう用はないですよね」

    返事を聞く前にさっさと踵を返して歩き始める庄左ヱ門に引っ張られるように足が進む。逆らってまで止まろうとは思わないが、後ろが気にかかり肩越しに振り向くと、そこにはこちらをじっと見たまま変わらず壁に背中を預けている先生がいた。
    とりあえず軽くお辞儀をすると、軽く目を見開いた後右手を軽く上げる。

    「庄?一体どうしたんだ」
    「………」

    歩きながら聞くが庄左ヱ門は前を睨んだまま。繋がっている手をさらに強く握られる。この態度の理由が一つ思い浮かび、それが仮に当たっていたとしたら。

    「ふふ……」
    「………………何を笑っているのですか」
    「いやぁ?可愛い後輩をもって幸せだなぁって」
    「………」

    少しからかったら拗ねてしまったようでだんまりになってしまった。けれどそれさえも可愛らしくてとうとう堪えきれなくなり声を出して笑いながら頭を撫でる。払い落とされてしまった。

    「心配しなくても、私はお前を置いては行かないよ」
    「………別に」
    「ん〜?私が相澤先生に取られるんじゃないかってヤキモチ焼いんじゃないのか?」
    「そんなことありません!」
    「照れるな照れるな」

    あまりやりすぎると本格的に拗ねてしまうのでほどほどにしておく。それでも可愛らしい姿を見れたので満足だ。

    ゆっくりと歩きながら席に戻っていると、一際大きな歓声が聞こえる。時間的にも恐らく最後のもの。

    「終わったな」
    「観なくてよろしかったので?」
    「分かって聞いてるだろ」

    決着はどうせ爆豪か轟だろう。結果なんかに興味はないし、閉会式の後はそのまま解散だったはずだ。ならもうここには用はない。

    「帰るか」
    「…………カレーが食べたいです」
    「ふふ。なら、今日はカレーにしような」
    「はい!」

    むすくれながらも食べたいものをリクエストしてくる庄左ヱ門が可愛くて仕方が無い。これは腕によりをかけて作らなければ。


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