二話
雄英高校には編入試験というものがない。
勿論、他の科から別の科への編入というものはあるが、それだって滅多なことではないしましてや外部からの途中編入というものはこれまで一度もなかった。
けれど今年、試験的に編入制度をヒーロー科に導入してみるという話が出た。
雄英以外にもヒーローの原石はいる。それをわざわざ放っておくのも勿体無いし、何よりそういう素質を持つものの大半は世間からどこかずれている子が多い。そんな子が放ったままにされヴィランになどなったらたまったものではない。
そういうわけで、高校生のヒーロー科の中から有望な子を探し出すことになった。今年の編入生たちがどうなるかによって、この制度を本格的に導入するか決めようというわけだ。
勿論あくまでもお誘いなので、当人の意思を尊重し、編入を拒否することもできる。
基本的には雄英側が探しだし試験を受けるかの通知を渡すが、何事にも例外というものはつきものだ。
_________________
編入者の裁定も終わり、さて試験の準備に取りかかろうと動き出したその時。
「あ、そういえばもう一人いるから」
今の今までそんな存在を一言も告げられなかったところでのいきなりのそれに、一瞬空気が固まるがすぐにどんな人物なのかその情報に耳を傾ける。
「その子は普通科なんだけどね」
「ちょ、ちょっと待ってください」
が、最初の一言でストップがかかる。
「普通科って……編入の最低条件がヒーロー科在籍ということじゃなかったんですか?」
「彼女は確かに普通科だけど、ある人物からの推薦でねぇ」
「彼女、てことは女子ですか!?」
「男でも今から他の生徒に追い付くのは厳しいかもしれないのに、それが普通科の女子生徒というのは現実的に厳しいのでは………?」
「彼女はそんな次元の話ではないよ」
普通科でしかも女子ということを聞くと会議室内はざわつき否定的な意見が飛び交うなか、校長の雰囲気が変わったことで一気に静まり返る。
顔に影をつけながらも思考がよめない表情で校長は静かに口を開く。
「その推薦した人物というのが僕の昔からの友人でね。その目は確かだ。でもみんなが言うように普通科で、しかも女の子。僕もそれはさすがに無理だろうと思って断ろうとしたんだ。
でも彼女を一目みてそんな考え吹っ飛んだ。
彼女は凄いよ。正直なんで今まで普通科で誰も気づかれなかったのか不思議なくらいだよ」
校長の言葉には冗談などまったく感じず、室内は困惑の雰囲気を出す。
「わかりました」
誰もが何をいっていいのかわからず口を閉ざすなか、一人の声が響き全員の視線がそれを発した相澤に集まる。
「校長がそこまでいうのならば他の生徒との編入試験をやる前に別の試験を一つ行いましょう。校長の言葉から有望な人物だとはわなりますが、やはり普通科からヒーロー科への編入は慎重に行った方がいい」
「うん!それでいいよ!」
「で、その試験は何をやるんだ?」
「それは__」
浅間由紀の雄英高校ヒーロー科編入試験は、こうして当の本人の気持ちとは全く関係ないところで着々と進んでいった。