三十四話
「では、期末テストの組み合わせはだいたいこれでいいですね」
会議室で教師たちが集まり、期末テストの組み合わせを決めていた。生徒間の組み合わせと、苦手、仲の悪さ。それらで決めたので少々時間がかかってしまった。
「あとは……」
「浅間さんね」
残った彼女のことを思い浮かび、それを知っている教師達は大きく息をついた。
「どうするよ」
「俺は嫌だぞ」
「私も」
「僕もちょっと……」
そんなこんなで、彼女の相手を一人で受けるのを嫌がった教師が続出し、なかなか決まらない。そんな中、ずっと黙っていたオールマイトが静かに口を開く。
「彼女には、他の生徒達と同じ試験は無意味でしょう」
険しい顔をして言うオールマイトに、周りの教師もどうしたのかと困惑する。
「いきなりどうしたんだい?」
「彼女は危うい。精神的にも、身体的にも。他よりも抜きん出ている。だからこそ、彼女には限界を出させるべきです」
オールマイトは先日のことを思い出す。
廊下でいきなり自分の正体を気づかれたのは驚いたが、その先はもっと驚いた。
ヒーローとは、正義とはなにか。その問に精一杯の答えを用意した。けれど、彼女はその全てを聞き、理解した上で。ヒーローを拒絶した。
あの時の、とてもスッキリしたような、晴れやかな笑顔が、頭に張り付いて離れない。
そして、その最後の一押しは自分の言葉だ。
「___うん。なら浅間さんは別の試験をやろう」
***
筆記試験も終わり、残りは実技を残すのみとなった。
嘆いている者が数名。実技は楽勝だと余裕を持っている者幾名。
「浅間、どうだった?」
「躓くわけがない」
「俺も余裕だ」
筆記は余裕。実技の為にコスチュームを着て会場にやって来ると、そこには教師たちが大勢おり、とても仮想ヴィランを相手にする試験を行うとは思えなかった。
そして予想通り。
「残念!諸事情があって今回から内容を変更しちゃうのさ!」
浮かれる生徒を遮り、相澤先生の捕縛武器から校長が飛び出し言った一言に、浮かれていた奴らは固まった。
「これからは、対人戦闘・活動を見据えた。より実践に近い教えを重視するのさ!
というわけで…諸君らにはこれから、二人一組でここにいる教師ひとりと戦闘を行ってもらう!」
「先……生方と……!?」
「尚ペアの組と対戦する教師は既に決定済み。動きの傾向や成績親密度…諸々を踏まえて独断で組ませてもらったから発表してくぞ」
そうして全員が呼ばれていく中、私だけ残った。
「あの、私の相手は誰ですか?」
「浅間。お前は全員が終わった後で別試験だ」
「え……」
仕方がない。一人だけ別だというのなら、誰かと組むよりも逆にそちらの方が楽だ。
それぞれの組が先生を伴いバスに乗車していく中、轟がこちらに近づいてきた。
「浅間」
「どうしたの」
「勝ってくる」
「そう。なんでわざわざ言いに来たのか分からないけど」
「応援していてくれ」
「勝手にやってろ」
微妙に会話ができていないと思うのは私だけだろうか。しかしじっと見てくる轟と、そのパートナーの八百万が組まされた訳がなんとなく分かってしまい、その相手の相澤先生を思い浮かべ大きくため息をつく。
「死なない程度で頑張れ」
轟は大きく目を見開き、次の瞬間には破顔し笑った。
「ああ……」
「ならさっさと行け。後はお前達だけだぞ」
「なぁ浅間。先生に勝ってきたら、名前で呼んでくれ」
「なんでだ」
「頼む」
「………………ハァ。分かった。勝てたらな。分かったからさっさと行け」
頷かない限りこの場を動かないと察し、深くため息をついて渋々了承してやる。
それに嬉しそうに笑い、やっとバスに行った。
「ハァ……面倒だ」
「青春だね〜」
「意味が分かりません」
茶化すリカバリーガールに言葉を返し、彼女と一緒に試験が終わるまで救護室で待機するため足を進めた。
本当。なんであんなに懐かれたんだか。
***
浅間由紀に実際に会ったことはほぼなかった。けれどその名前は何度も教師達の間にあがり、試験的な編入生という立場から、表面的なことは知っていた。
けれど、今日のあれは。
「イレイザーもまだまだ若いねぇ」
轟が浅間と楽しげに話し、果ては名前呼びの約束さえしたあの時。バスで八百万と轟を待ちながら忌々しいものを見るように轟を睨んでいた。
あれは自覚しているのだろう。
別に成人するまで手を出さなければ、教師だ生徒だとどうこう言うつもりは無い。
ただ、周りに興味をあまり見せず、ましてや異性に執着などしないあの男が会って間もない。ましてや一回りも年下の自分の生徒を好きになるなど思ってもみなかった。あの男の性格から押し込めそうなものだが。轟という存在と彼女が大切にしている子供から、今手に入れないと不味いと思ったのだろうか。そうだったとしても、イレイザーが自覚した上で行動に移すなど。そう思うほど強い想いを持ったなど本当に信じられない。
轟は自覚しているのかしていないのか微妙なところだが、同級生である以上向こうの方が有利だ。それに加え黒木庄左ヱ門という妨害もある。
あの子はイレイザーが自覚する前から気づいて、さり気なく牽制していたからね。
「いやいや。どうなることやら」
二人の想いに一切気がついていない浅間しかり。これから一体三人の関係がどうなるか楽しみで仕方ない。
こんなに面白そうなこと、見逃すわけないじゃないか。
とりあえず、あんなにあからさまな態度を出しているのだから気がついている教師も何人かいるだろうから、見守る会でも設立しようかね。