三十五話
「別試験って何やるんですか?」
「基本的ルールは同じだよ」
今回の試験。対人戦闘を視野に入れた実践的なものだといっていたように、状況把握やらが問われるものだった。
制限時間は三十分。『このハンドカフスを先生に掛ける』or『どちらか一人がこのステージから脱出』が条件。
格上を相手に、どう立ち回るかが問われる。私の編入試験と似たようなものだ。違うのは、今回は逃げるという選択肢があること。
敵を倒せるのならそれでもいいが、実力差が大きすぎる場合。逃げた方が賢明な時がある。体重の約半分の重りを付けているとはいえ、先生方との実力差は考えるまでもないだろう。
基本ルールが同じということは、どこかしら差異はあるのだろう。だけど目的の中に『ステージから脱出』があるのなら、一番確実なのは逃げかな。
「あ、あんたはの勝利条件は『ハンドカフを掛ける』のみだからね」
「え……」
***
緑谷爆豪チームは絶対に仲の悪さのみで決めただろ。チーム内で争い出すなんて最悪だな。相手がオールマイトだということも何か理由があるのだろう。
しかし、轟八百万チームの決め手は私が思った通りだ。轟のやつ八百万には何も聞かず自分ひとりで決めている。なまじ個性が強力だから何かあっても力でゴリ押し出来るのだろう。それに対して八百万。彼女は自信が絶対的に少ない。個性は強力だし、それは彼女自身の知識量があってのことなのに、何故あんなに自信喪失しているのか。
あの二人に対して個性を消せる相澤先生が相手。轟が直らないと勝てないぞ。
「…………リカバリーガール」
「なんだい?」
「庄の所に行ってきていいですか?」
「駄目に決まってるだろ」
「じゃあ庄をこちらに呼ぶことは「駄目」……」
暇だ。
***
試験が始まる前、浅間に応援してほしいと言ってはみたが、実際にしてくれるとは思っていなかった。だからこそ、"死なない程度で頑張れ"と言ってくれた事は予想外だったし、それ以上に嬉しかった。
今までだったら絶対にそんな言葉かけてくれなかっだろう。そう思えるからこそ、あいつとの距離が縮まったように思えて嬉しかったんだ。
そしたら少しの欲が出た。
名前を、呼んでほしいと思ってしまった。"庄"と呼ばれるあの子供に、嫉妬したんだ。だから駄目元で頼んでみたが、まさか了承してくれるとは思わなかった。
八百万に首を傾げられたが、この試験は成績以上に気合を入れなければ。
「……………おい」
すると、不機嫌そうな相澤先生の声で呼びかけられそちらを見る。
前の座席に座っている相澤先生は、いつもの気だるそうな顔でこちらを振り返っているが、睨まれているように感じるのは俺だけだろうか。
「浮かれて試験にしくじるなよ」
「分かってます」
答えるとそれ以上何も言わず前に向き直ったが、どうして相澤先生は俺が浮かれていることに気がついたんだ?
***
「相変わらず甘い男だね」
リカバリーガールの言うとおり、捕まえられるはずだっ八百万をそのままに、後ろに下がったことでまんまと捕獲された相澤先生。
多分、八百万の自信喪失を改善させる為なんだろうけど、甘いな。
最初の轟八百万ペアの成功を皮切りに、続々と成功していく。
「そろそろですかね」
「だね。準備をしておきな」
「結局何をやるんですか」
「それは本番のお楽しみ」
あと一組。そろそろ自分の番だと準備運動をしておく。リカバリーガールは結局何をするか教えてくれなかったが、せめて彼らと似たようなことにしてくれと願ってしまう。まあ私には逃げの選択はないんだけどね。
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指定された運動場に行くと、既に先生方はいた。そう、何故か複数いるのだ。
「やあ!今回君はここにいる教師陣を相手にしてもらうよ!」
「……校長も加わるのですか?」
「いや、僕はない!」
残念だね!と笑う校長に、僅かに安堵する。人間以上の頭脳である校長の個性は厄介だからだ。
にしても、プレゼントマイクにミッドナイト。それに相澤先生だなんて。
「見事に、敵に回った時点で終わる人選ですね」
「まあそう言わずに!君の試験は至ってシンプル!三人にハンドカフを取り付ければ終了さ!複数である目的は、君に全力を出してもらうこと!自分の限界を知ってもらうためさ!途中で更なる受難が出るからね!気をつけて!」
渡されたハンドカフをしまい、チラリと立っている先生方を見る。
見事に近接、遠距離、全方位と揃ってるな。ミッドナイトの眠りも嫌だけど、プレゼントマイク煩いから嫌なんだよな。更なる受難ってことはまだありそうだし。
校長が退避し、それぞれ好きな位置につく。場所は市街地だ。沢山の廃ビルがある。動くにも隠れるにももってこいの場所。
目を閉じ、深く深呼吸をした。
思い出す。個性という違いはあれど、どこにいるのかどこから攻撃が来るのか何もわからない中、探し出し、殲滅する。昔を思い出す。
嗚呼。
「楽しみだ」
開始の合図が高らかに鳴り響いた。