四話
予兆は先生からの呼び出しだ。
自分でいうのもなんだが、私は成績優秀だし問題事を一切おこしたこともない優等生だ。呼び出される理由がわからない。
しかもそよ呼び出し自体もよくわからないものだった。進学云々。将来云々。協調性云々など、ただ単に時間を潰しただけで、私は少々苛立ちながら荷物をとりに教室への道を歩く。
既に下校時間が迫っており生徒はほとんどいない。
だが、ふとそこで思った。
(静かすぎないか?)
いくら下校時間が迫っているとはいっても、ギリギリまで部活動をしている生徒もいるし何よりも先生方や事務員等はまだ残って仕事をしているはずだ。それが自分以外いないようなこの静けさ。
私は立ち止まりあたりをうかがった。
その時だ。何かが勢いよくこちらに向かってくる気配を感じすぐさまそこから飛び退く。
今まで私がいた場所には白い布のようなものが通りすぎた。
「反射神経と危機察知能力はまあまあだな」
知らない男の声が聞こえたかと思えば、布の発信源の陰から一人の男が出てきた。
その男を見た瞬間、その格好からあるヒーローが当てはまりどういうことなのか怪訝な顔になる。
「なぜここにいるんですか」
「不審者にそこにいる理由なんざ聞くなんて合理的じゃないな」
「不審者?寝言は寝ていってください。私は、あなたのような立場の人がなぜこんな高校にいて、なおかつ私に攻撃してきたのかと聞いたんです。プローヒーローが不審者__犯罪者に身を落としたなどと本気でいっているのであれば笑えますね。そうでしょ?抹消ヒーローイレイザーヘッド」
「驚いたな。俺を知っているとは」
「で?なぜプロヒーローであるあなたがここにいて私を攻撃したのか。ご説明いただけますよね」
「……さぁな」
イレイザーヘッドはまともに答えず首もとの布を私に巻き付ける。
特に抵抗する理由もなかったのでそのまま無反応でいると、イレイザーヘッドはゆっくりと締め付けてきた。
「抵抗しないのか?」
「する理由がありません」
「こんな場面で悠長に会話しているのはどうかと思うが」
「あなたがどういう意図でこのようなことをしているのか分からないうちは、手の出しようがありません」
徐々に強まっていく締め付け。淡々と会話している裏で、私はその締め付けと比例するように苛立ちが募っていく。
「なぜあなたのような立場の方が私のような一般人に危害を及ぼしているのでしょうか」
苛つく。苛つく。どいつもこいつも。
「理由をのべてください。それとも、ヒーローというものは理由もなく一般人を害するものなのでしょうか」
嗚呼苛つく。私はこんな非日常求めていないんだ。それがなんでこんなことになっている。
ふつふつと押さえきれない苛立ちが込み上げてくる。先程までの教師の拘束の苛立ちもあり、どんどん沸き上がってくる。
「……………お前はこの状況で一体どうする?」
プチン。と、頭のなかで何かが切れた音がする。
私は負けず嫌いでなめられているのは我慢できない。だから、こんな問いかけされて、明らかにこちらを下に見ているその態度が。
気にくわない。
「…………………嗚呼。もういいや」
私の実力が知られるとか、面倒なことが起きるとか。そういうことを気にかけるよりも今はとにかく、こいつをねじ伏せたい。
なんの抵抗をしていなかったがそれをやめ、一気にイレイザーヘッドに向かって走る。
「っ!」
いきなりの行動に驚くが、そこはさすがにプロヒーロー。すぐさま対応しようとするがそれよりも私の方が早い。
思いきり右足で蹴りつけるが左腕を盾にされる。けれどその一瞬で布が緩まりすぐさま抜け出した。
イレイザーヘッドが反撃によこした腕をバク天の要領でかわし、ついでに顎を蹴りあげようとするが、それは寸でのところで避けられる。着地すると態勢を整えさせる前にイレイザーヘッドの片腕をとり折ろうとした瞬間、思いきり振り払われ後方に飛び退いた。懲りずにまたもや布を飛ばそうとしてきたので、ポケットに入っていたペンを投げつける。当てるつもりはなくただの牽制目的なのでそれはイレイザーヘッドの脇を過ぎ去り壁に突き刺さった。
それをみるとさすがに警戒したのか、こちらを鋭い目でみてその場から動かない。
私は肩を回し体の筋を伸ばしながら調子を確認する。
「やっぱり鈍ってるなー。まあ十年以上ぬるま湯につかってきたから無理もないか。
さて、抹消ヒーローイレイザーヘッド。先に手を出したのはそっちだし、何しようと正当防衛ということでよろしいですか?」
ニッコリと、笑いかけてやればイレイザーヘッドは目こそゴーグルで見えないまでも少しだけ後ずさった。