五話
相澤side
あの校長があそこまでいう人物。しかも普通科の女子というだけではじくのは合理的じゃない。そう思って提案をした。言い出した責任のような形で押し付けられたが、正直その少女に期待はしていなかった。
女子としてはやるのだろうが、ヒーロー科に編入させるには普通科の女子というのは現実的にみてよほどのことがない限り無理だ。
だからさっさと終わらせようと考えていた。相手を侮っていたともいえる。
そいつは周囲の異常に素早く気がついた。その時点で妙な違和感があったが、とにかく試してみるしかないのだから初撃を繰り出すがそれも簡単に避けられる。
「なぜここにいるんですか」
「不審者にそこにいる理由を聞くなんて合理的じゃないな」
「不審者?寝言は寝ていってください。私は、あなたのような立場の人がなぜこんな高校にいて、なおかつ私に攻撃してきたのかと聞いたんです。プロヒーローが犯罪者に身を落としたなどと本気でいっているのであれば笑えますね。そうでしょ?抹消ヒーローイレイザーヘッド」
「驚いたな。俺を知っているとは」
「で?なぜプロヒーローであるあなたがここにいて、なぜ私を攻撃したのか、ご説明いただけますのね」
「………さぁな」
自身のことを知っていることに驚いたが、そこで会話をやめもう一度捕縛武器を投げつける。
今度は避けられることなく簡単にその体に巻き付いた。
「抵抗しないのか?」
「する理由がありません」
「こんな場面で悠長に会話しているのはどうかと思うが」
「あなたがどういう意図でこのようなことをしているのか分からないうちは、手の出しようがありません」
会話をしながら思ったが、この女冷静すぎる。普通いきなりこんな状況に放り込まれたら混乱するだろ。ましてや訓練もなにも受けていない一般人ならばなおさら。
にもかかわらず女は締め付けられているにもかかわらず淡々と言葉をぶつけてくる。
「………お前はこの状況で一体どうする?」
このままでは見極めるものも見極められない。そう判断して発した言葉が引き金か。
「…………………嗚呼。もういいや」
ポツリと、本当にこぼれ出たような小さな言葉が出た瞬間、女の雰囲気が変わりいきなり襲いかかってきやがった。
俺が反応するよりも早く蹴りを叩き込まれ、何となく防御したがその一撃は想像以上に重かった。
その衝撃で捕縛武器が緩んでしまい、女はその隙を見逃さず拘束から抜け出す。
手加減なんぞしている場合ではないと判断し、本気で殴るつもりで右腕をつき出すが、奴は事もなにげにバク天の要領で避けやがった。しかもついでとばかりに顎を蹴りあげられそうになり、紙一重で避けるとブォンとあんな華奢な足から繰り出されるとは思えない音が聞こえ冷や汗が流れる。
女は着地すると、こちらの態勢が整う前に一息で懐に入ってくる。その素早さに驚く間もなく女に腕をとられたその時。
本能がヤバイと警告音を発し、相手が女だとか、一般人だとか。そういうことが頭から完全に抜け落ちただただその腕から逃れるために思いきり振り払いすぐさま後方に逃れ、その過程でもう一度捕縛武器を飛ばす。けれど今度は捕まらず、逆に女はなにかを投げつけてきた。
それは明らかに当てるつもりはないもので、俺の脇をものすごい勢いで通りすぎると背後から壁に突き刺さる音が聞こえる。
「やっぱり鈍ってるなー。まあ十年以上ぬるま湯につかってきたから無理もないか。
さて、抹消ヒーローイレイザーヘッド。先に手を出したのはそっちだし、何しようと正当防衛ということでよろしいですか?」
ニッコリと、今までの無表情と真逆に笑うが、目は全く笑っていない。
女はその年に似合わない殺気を放ち、異様な雰囲気に飲まれかけていた俺は無意識な後ずさった。
こいつが一般人?ふざけんな。現役ヒーローだとかヴィランだとか言われた方がまだ納得する。
校長のいう通りだ。こいつはそんじょそこらのやつとは全く次元が違う。むしろなんで今まで普通科なんぞに埋もれていた。
《相澤君ストップ。これ以上はまずい》
これは俺も本気でやらざるをてないか。そう覚悟を決めたとき、監視カメラで様子を見ていた校長の声が無線機から聞こえる。
「………終了だ」
「…………………………………は?」
俺の一言にそいつは怪訝な顔をしてこちらを見やる。
「悪かったな。いきなり攻撃なんぞして」
「………どういうことかご説明してもらっても?」
「まあ、なんだ。詳しい説明は後日ここに来い」
こいつは確実に合格だろうと雄英の住所と来るべき日付など必要最低限がかかれている書類を一枚押し付けると、俺は自分の仕事が終わったのでさっさとその場をあとにする。
後ろから物凄い音がしたが、俺は知らん。
side終了
さあ少し本気を出してあの野郎をぶっ潰そう、と思ったその時、イレイザーヘッドが終了だと言い出し、いきなりのことで理解が追い付かない私をほうって戦闘態勢を解くと私に一枚の紙を押し付けてさっさと歩き去っていく。
なんだ、あれ。
つまり、どういうことだ。
に・げ・ら・れ・た・?
「っ!!!!!」
その事実にようやく脳が追い付いた瞬間。私は衝動の赴くままに壁に拳を叩きつけると、物凄い音がしてその箇所がへこんだ。
ふざけんな。ふざけんな。ふざけんな。
なめられっぱなしは性にあわない。
イレイザーヘッド。抹消ヒーローイレイザーヘッド。
「次会ったら絶対に潰す」