過去と忍びと今とヒーロー
  • 表紙
  • 目次
  • しおり
  • 七話



    イレイザーヘッドから渡された書類には、雄英高校の住所と日付が書かれていた。
    なんでイレイザーヘッドがこんなものを渡すのか分からなかったし、そもそも雄英が私になんのようなのか皆目検討もつかないが、それでも先日のことがいったいどういうわけだったのか知りたくて来てしまった。

    無駄にでかい門の前で私は今からでも帰ろうかと思ったが、イレイザーヘッドがあの書類を渡したということはやつがここにいる可能性が高い。
    とりあえず入校証を貰うおうと事務室を探そうと歩き出す。


    「やあ!」

    するといきなり声をかけられた、けれどどこにいるかと周りを見渡す。けれど声の主らしき人物は見当たらなかった。

    「浅間由紀さんであっているかな?」


    だけどどう考えても声は近くから聞こえ、ふと下を見てみるといた。


    「初めまして!僕はここの校長の根津だ!」

    明らかに人ではない。けれど雄英の校長だと名乗るネズミのような生き物が片手をあげてこちらを見上げていた。


    「初めまして……」
    「よく来てくれたね!さぁこっちだよ!」


    案内されるように先に歩き出した校長の背中をもう一度ゆっくりと見る。うん。小動物だ。

    とりあえず考えることを放棄して校長のあとを追うことにする。










    通されたのは応接室。
    促されたので高そうなソファに座った。


    「さて。改めて僕はここの校長をしている根津だ。浅間さん、今日は来てくれてありがとうね」
    「はぁ、いえ。それよりいったいどういう用件でしょうか?」
    「うん。まずは先日のことを謝ろう。いくら試験とはいってもやっぱりいきなり襲いかかるのはまずかった!」
    「……………は?試験?」
    「そうだよ。雄英高校ヒーロー科の編入試験」
    「なぜ、私が……?」
    「君のお祖父さんが推薦したんだけど……あれ?話通ってない?」
    「聞いてないのですが……!」


    お祖父ちゃんなにやってるの!?
    多分私のためなんだろうけど!せめて一言声かけろよ!


    「ちょっと待ってください。ならイレイザーヘッドは…」
    「彼はここの教師だよ」


    そういうことか!


    「…………すみません。私は編入する気はありませんし、ヒーローを目指したいわけでもありません。そんな人間が真剣に目指しているなかに混じっても迷惑なだけでしょうし、今回は辞退させていただきたいのですが」


    一気にきた動揺をひとまず抑え、自分の意思をしっかりと伝える。

    けれど校長は全く変わらず考えが読めない表情のまま、お茶を飲んだ。


    「君はヒーローを目指していないのかい?」
    「はい。今回のことも祖父の独断なので」
    「じゃああの動きはなんだい?」
    「…………何、といいますと?」
    「あれは訓練を積んでいる動きだ。そして、明らかに実戦を想定したもの。ヒーロー志望でもないただの一般人である君があそこまで鍛えたのはなんでかな?」
    「別に、深い意味はありません。ただ自分の思うようにからだが動かないのが腹立たしかったので、最低限鍛えただけです」
    「うん。でもあんな動き素人には見えないんだよね」
    「…………なにをおっしゃいたいのですか」


    妙な流れになり、鋭い目付きで校長を見るが全く表情を変えないまま、こちらを冷静に見続ける。


    「君、何者?」


    この校長。可愛い見た目のくせしてなんて食えないやつだ。


    「………何者なんてそんな大層なものではありませんよ。私はただの一般人。ヒーローでもましてなヴィランでもありませんし、それに通じているわけでもありません。しいていえば、私は【私】だというだけです」


    じっと。腹の内が見えない表情で、でもこちらの全てを見透かそうとする黒い瞳でこちらを見る。
    それに負けじと視線をそらさず見つめ返している。

    その無言の探りあいを終わらせたのは校長だった。


    「そっか。うん。変なことを聞いてごめんね」
    「いえ、……ではこれで終わりなら私はこれで失礼します」
    「ああ。まだ終わってないよ。君の編入手続きしなくちゃ」
    「それは断ったはずでは?」
    「でももう組み込んじゃったし」
    「私が拒否すると言ったんです。当人の意思を無視しての編入をあなた方がするとは思えない」
    「そっか……なら仕方ないね」


    納得した様子の校長に安堵し、ならさっさと帰るかとその胸を口に出そうとした瞬間、彼がいった言葉に言おうとした言葉を飲み込んだ。


    「でも君のお祖父さんが悲しがるだろうね」


    ピタッ、と分かりやすくからだが止まった私を、校長は朗らかに見る。


    「君のお祖父さんと私は昔からの友人でさ!今回の編入の話を聞いていの一番に君のことを推薦したんだよ」
    「……………けれど、私は聞いていません」
    「"孫は誰よりも実力があるのに、それを表に出そうとしない。私にいつも遠慮している。きっと本当は全力で動きたいに決まっている。けれど高校だって私に遠慮して公立に行き、将来も公務員や弁護士など堅実な道に進もうとしている。私はもっとあの子に自由に生きてほしい。"っていってたな〜」


    お祖父ちゃん……っ!!
    そんなことないよ私は結構自由にやらせてもらってるし遠慮なんてしてないよ!!全力で動けなくてもなんら問題ないよ!?


    「君が編入を断ったら、君のお祖父さんの心遣いは無駄になっちゃうな〜」


    この…っ!


    「………… 校長先生、あなた性格悪いっていわれません?」
    「言われないね!」


    自分で分かるほど顔がひきつっている私の目の前には、片手に編入手続きの書類を持った校長がニコニコと小動物みたいに可愛らしく笑っていた。


    ALICE+