命令か、お願いか



「っ!」
凛は安室の顔を見ると、持っていた銃を彼に向けた。
「凛さん!?」
驚いたコナンが慌てて安室の前に飛び出したことで発砲こそされなかったが、凛は安室をにらみ続け銃は下ろさない。
「凛さん!安室さんは味方なんだ!大丈夫だよ!!」
「味方かどうかなんて関係ない。そいつは組織に潜入しているんだ。自分の立場が脅かされないように組織の任務だってこなす。ならば、こいつが私のことを報告、又は組織に突き出す可能性だってある」
「っ!そんなことはしない!」
「それを証明できるのか!?」
安室が否定するが、凛は銃口をを安室に固定したまま下ろさない。撃てるチャンスがあれば容赦なく撃つ。彼女の姿からはその本気がありありと感じられた。
「ダメだ!」
しかし、コナンの叫びには腕を下ろさないまでも視線を彼に向けた。
「安室さんを撃っちゃダメだ!!」
凛は、静かにコナンを見つめる。その目は安室に向けていたような感情的なものではない。何も無い、凪いだ海のように静かなものだった。
「それは命令か?」
静止の言葉は簡単に出た。けれど、凛の言葉への返答は、喉がひきつりコナンの口からは出てこなかった。
後ろで安室が、周りで赤井が、凛の言葉に驚愕しているのが気配でわかる。それほど、彼女の言葉はありえないものなのだ。
凛は、何処にも属さず誰の味方にもつかない。ただ己の安全のためだけに立ち回り。そんな彼女が、他人の意思を聞く。しかもまだ子供に自分の行動の是非を問いかけるなど。彼女を知るものからすればありえないことだった。
けれどコナンは違う。彼は初めてあった時から今のような彼女しか見てこなかった。彼女がコナンに行動の是非を問い、コナンの言葉に従うのは何故かはしらない。しかしコナン自身がそのことに納得しているのかいないかは別として、いつもの事だった。
「命令ならば従おう。だがお願いならば聞けない。私は私の安全の為に、少しでも危険の可能性がある限りそれを見過ごすことは出来ない」
言葉は淡々としている。だが少しの隙もなく銃を構え、眉間に寄った皺と流れる汗が彼女には余裕が無いことを知る。
「っ……!」
彼女は、コナンの言葉ならば聞く。コナンがただ一言【安室には手を出すな】と命令すれば凛は自分の安全よりもそちらを優先させるだろう。そして、【お願い】ならば凛はその殺意を緩めない。それをすべて理解していても、それでもコナンの口からは言葉が出なかった。
「命令か、お願いか。どちらだ!江戸川コナン!!」
選択を迫る凛の声に、コナンはぎゅっと手を握りしめ、絞り出すようにその一言を口にした。



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組織に追われている子。何故かコナンには従順。

この後コナンは多分"命令"として言うんだろうなぁ……なんて。

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