買い物終了


箸や食器。もろもろの生活用品を買った後はショッピングモールを出て少し小さいが家に近いスーパーに訪れた。

「えーと。大体はここで買い物とかに行ってもらうと思うから、道順覚えててね」
「さっきのしょっぴんぐもーるじゃ駄目なのですか?」
「んー。別にさっきの所でもいいけど、こっちの方が食材たくさん売ってるし。それにいちいちあそこまで行くの嫌でしょ?」
「あ、あー。確かにな」
「毎回あんなんあったら面倒ですね」

午前中の逆ナンパは予想以上に彼らが嫌ったのか、それを指摘すれば思い出したように眉をしかめた。

「えーと。君達何食べたい?」
「にく!」
「肉か。昼が洋食だからやっぱ和食の方がいいかなー………よし。肉豆腐にしよう」

今日の夕食を決めれば、後は当面の食料を買えばいいだけだ。まずはスーパーにも驚きあちこち目で追っている彼らを促し野菜売り場に行った。

「なんだ?こんなしけた野菜がこんなに高いのか?」
「そうなの?」
「ああ。これはやめとけ。こっちの方がいい」
「う、うん」
「今は仕方ないとはいえ、魚を買うってのもなんかあれだな」
「確かに。いつもは俺達が売る方だからな」

野菜売り場についた途端売っている野菜を品定めし駄目出しをする彼らはまさにプロのそれだった。確かに彼らに選んでもらった野菜はどれも鮮度がいいものだったし、目利きは確かなのだろう。だが魚を売る方という言葉は引っかかった。

「あれ?君達海賊じゃなかったっけ?漁師なの?」
「ああ、いや。漁もこなすぞ」
「そうなの?」
「海賊っつっても商船の護衛もやるし鯨取りもやるし漁もやるし。海を荒らすやつらを懲らしめたりしてるからなぁ」
「それって海賊っていうより海軍?とか自衛団みたいなものなんだね」
「んなお上品な奴らじゃねぇけどな!」

やっている内容を改めて教えてもらえば、それは海賊ではなくむしろ守る方じゃないの?と言えば疾風が笑っていい、他のみんなも笑っていた。海賊といえば略奪なんかをやっているイメージだったけど、彼らは違うんだろう。だけど多分血の気が多いのは確かみたい。

「じゃあ目利きはお願いしようかな」
「おう!任せろ!」

彼らに野菜と魚、それに肉の選別をお願いすればさっさと選んでしまった。さすが。

「あとはー。お豆腐とパンと、飲み物とー。調味料も足しとくか。あ、そういえば蜉蝣と疾風はお酒飲む?」

20歳の二人に聞けば、目配せしあった後に遠慮がちに頷いた。

「じゃあ買い足しとこ」
「あー……桐生さん。別に無理しなくていいぞ?」
「そうだぜ。別に無くても困らないんだし、ただでさえ色々買ってもらってんのに。これ以上はな……」
「別にいいよ。私も飲むし。それに我慢はよくない。ここにいる以上君達には我慢させることになる。それは海に行けないってこともそうだし、危ないから出来るだけ外にも出ないでほしい。いろいろなことを我慢させてしまう。だから、可能な限り君達の要望にそいたいんだよ」

お豆腐を手に取って振り向けば、口を開いて呆然としている彼らがいた。何をそんなに驚いているのかと首を傾げれば、彼らはどんどん笑みを浮かべていく。

「桐生さん。あんたお人好しって言われないか?」
「特に言われないけど……」
「そんなんでよく今まで生きてこれたなぁ!」
「んー。君達の場所と違ってそこまで危険じゃないからね」
「なら今の時代の酒が飲みてぇな」
「じゃあウィスキーとか?ワインとかかな」
「ういすきー?わいん?」
「試しに色々買ってみるね」

頭の上にハテナを飛ばす二人に、桐生は目を細めながら笑いかけた。今までの見たような笑とはまた違う。女を感じさせるその表情に息を呑んだ。

「桐生さん。俺も飲みたいです」
「義丸はまだ14でしょ?駄目」
「え〜」
「向こうでは飲めていたの?」
「元服がすめば一人前の男ですから!」
「でもここじゃ20を過ぎなきゃ未成年です」

まだ不服そうな義丸を宥めつつ蜉蝣と疾風がそれぞれ目で少しだけ見ていたものや好きそうな酒を籠の中に入れていく。

「鬼蜘蛛丸。義丸が飲まないように監視しといてね」
「はい!」
「蜉蝣、疾風。飲ませちゃダメだからね」
「おう」
「えー。ちっとぐらいいいじゃねぇか」
「駄目。身体への影響とか色々あるんだから。君達の所でのことをどうこう言うつもりはないけど、ここにいる間はここのルールに従ってもらうよ」
「疾風、義丸。郷に入れば郷に従え、だ」

これは先に釘を指しといて正解だった。何も言わなかったら飲ませていたな。
蜉蝣と鬼蜘蛛丸に窘められている疾風と義丸を見て、そろそろ次のコーナーに行こうと呼びかけた。

「そうぶすくれないの義丸。ほら、好きなお菓子買っていいから」
「子供扱いしないでくださいよ!」
「じゃあお菓子はいらない?」
「………いります」

むすっとした顔のまま小さな声で答えた義丸に笑いがもれる。それにさらにへそを曲げてしまったのか、顔を背けられてしまった。

「鬼蜘蛛丸と舳丸、重も好きなもの選びなよ」
「いいの!?」
「え、」
「いえ、私達は……」
「義丸だけに買うのは不公平でしょ」

重は嬉しそうに言うが、舳丸と鬼蜘蛛丸は遠慮していた。けれどいざお菓子売り場に行けば顔が輝き更に言い募れば遠慮がちにだが商品を見に行った。

「蜉蝣と疾風には何かおつまみ買っていくか。何がいい?」
「なんでもいいぞ」
「……なぁ、このはらみってなんだ?」
「ハラミは……まあ食べてみればわかるよ」

蜉蝣が神妙な顔でハラミの袋を見ていたが、上手く説明出来ないのでとりあえず食べてみれば分かるとカートの中に入れる。
うんうん悩んでいた四人も自分の興味が引かれたお菓子をそれぞれ手に取ってきたので、それもカートの中に入れる。もう買うものは買ったのでレジに向かえば、重がじっと一つの場所を凝視していた。その先はオモチャ売り場。そう言えば遊び道具はなかったなと思い至った。

「重。なにか欲しいものでもあったの?」
「……姉ちゃん。あれってなに?」
「あれはおもちゃだよ。何かいくつか買っていくか」
「いいの!?」
「まあ暇つぶしのものがないと辛いだろうし」

そうして、ブロックや積み木。一通りではなく工夫しだいで沢山遊べるオモチャを買い今度こそお店をあとにした。

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