家に帰りましょう


会計が済むと思った以上の荷物になってしまった。家からは近いからいいとはいえ、基本的にインドア派の私には結構辛いぞ。
うんとこしょっと袋を持てば、すぐに手元が軽くなる。その袋を目で追っていけば蜉蝣が持っていた。

「桐生さん、あんま無理しないでくれ」
「そーそー!こういう力仕事こそ俺らの仕事だろ」
「でも少しは持つよ」
「大丈夫ですよ。俺達だけで持ちきれますし」
「第一、そんな細腕で持ってたら折れそうで見ていられませんよ!」

気がつけば残りの袋も全て、蜉蝣疾風鬼蜘蛛丸義丸の手にあった。確かに彼らの言うように荷物は全て持たれていたし、私自身持てるか不安だったから正直助かるのだが、何も持たないというのも居心地が悪い……。なんて思っていれば右手に温もりが。右下を見てみればニコニコとご機嫌に笑っている重がいた。

「楓さんは重を持っていてください」
「いや持つって……」
「姉ちゃんと手つなぐ!」

舳丸がそう言うが、満面の笑みで重に言い切られてしまってはもう何も言えない。
しかし桐生はじっと重を見下ろした後、何か考えるように黙り込んだ。そして舳丸を見て空いている左手を差し出す。

「じゃあこっちは舳丸か」
「え、」

既に荷物をすべて持ってしまった蜉蝣たちに荷物を持つと言っていた舳丸は、僅かに目を見開き固まってしまった。蜉蝣たちは微笑ましそうに見ていたりニヤニヤとからかい混じりに見ていた。

「いいな。桐生さん。舳丸も持っといてくれ!」
「疾風の兄貴!?」
「舳丸のアニキも姉ちゃんと手つなぐ!」

疾風にも重にも言われてしまい、周りを見渡して自分の味方がいないことに気がついた舳丸はじっと差し出されている桐生の手を見つめる。

「ん」
「………」

なおも差し出し続けていると、恐る恐るといったふうに手を重ねてくる。それを握れば、ビクリと震えた。その姿が警戒する小動物のようで可愛かった。

「じゃあ、帰ろっか」

そう言って笑えば、彼らはキョトンっとしていた。何故そんな表情をするのかわからず首を傾げると、重が右手を引っ張るので下を向く。

「どうしたの?」
「おれたち、かえってもいいの?」
「ん?」

少し考えて、その言葉の意味に思い至る。重は不安げでだけど少しの期待を滲ませてこちらを見上げ、見れば舳丸も同じような顔をしていた。

「勿論。ここにいる間は自分たちの家だと思ってよ」

そう笑いかければ、重が勢いをつけて腹に飛び込んでくる。至近距離から飛びつかれるが、私がそんなものに耐えられるわけがない。勢いに流されるまま後ろによろめき倒れそうになる。しかし背中に何かが当たったかと思えば肩を手で支えられる。舳丸が支えてくれたのだ。

「ありがとう舳丸」
「いえ…っ、重!危ないだろ!」

お礼を言うために見上げれば予想以上に舳丸の顔が近かった。舳丸は少し体を強ばらせたが、すぐに未だ私の腹にへばりついたままの重を叱りつけた。

「重。それじゃあ桐生さんが歩けないだろ?」

鬼蜘蛛丸が窘めても重はぎゅっと服を握って顔を埋めたまま動かない。さらに鬼蜘蛛丸と舳丸が窘めようとするのを手で制した。

「いいよ。重は私が持っていく」
「ですが……」
「大丈夫だって」

引っ付いたままの重を抱え直す。うん。重い。落とさないようにしっかりと抱えれば、重は掴むところを首に変えて私の肩に頭を乗せる。ご機嫌そうに足をパタパタと振るものだからバランスが崩れそうになってしまう。

「こら、重。落ちるから暴れるな」
「えへへへー」

注意しても重は上機嫌に笑うだけ。まあいいかと諦めて、もう一度抱え直し今度こそ待っていた彼らに向き直る。

「よし。じゃあ帰ろっか」

そう言えば、彼らも笑って頷いてくれた。

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