買い物に行きましょう


2階の物置には練習用の作品やら仕事仲間に押し付けられたものが多く置いてあったが、予想通り男物の服はあった。だが思っていたより種類が少なく、スーツとシャツ、ジーパン、Tシャツ、ハーフパンツぐらいしかなかった。

「重。子供用のあったよ」
「むー……」

なんとか子供用の服もあったので渡すと、少しむくれながら受け取る。そんなに私に作って欲しかったのかと思い、いつか気が向いたら何か作ってやろうと思った。

「よし、それじゃあ皆脱げ」
「は!?」
「桐生さん、仮にも女なんだからもう少し慎みをもって……」
「何を勘違いしているんだ。ただ分からないだろうけど、一人ずつ相手するのは面倒だから一斉にやろうと思っただけだよ」
「なんだぁ」
「何を残念がっているんだ義丸。まあ今あるのは簡単なものだし、洋服は着物より着るのが楽だろうから大丈夫だと思うけどね」

私の言葉に疾風が驚き蜉蝣が気になることを言った。仮にもってなんだ仮にもって。
しっかり理由を説明すれば、義丸が残念そうな声を上げ鬼蜘蛛丸に殴られていた。

「しっかし。みんないい体してるね」
「興奮しましたか?」
「ヨシ!何を聞いているんだ!」
「するわけないでしょ。蜉蝣と疾風たちぐらいならともかく、10代なんて若造に欲情するわけないでしょ」
「桐生さんも女性が欲情なんて言わないでください!」

鍛え上げられた体に所々にある傷。そんなまさに海の男というような立派な体に感嘆の声を上げると、義丸が見せつけながら聞いてきて鬼蜘蛛丸に殴られていた。しかし20歳の2人ならばともかく、14や12の子供に欲情しては犯罪だろう。そう言えば鬼蜘蛛丸に怒られてしまった。

「けど本当にいい体だね。今度スケッチさせてよ」
「ああそういうことか」
「全く。紛らわしい言い方しやがって」
「別にかまやしねぇよ」
「やった」

一番背格好が大きそうな蜉蝣に一番サイズの大きいスーツを。疾風にはジーパンと白いシャツ。義丸と鬼蜘蛛丸にはそれぞれ赤いシャツと青いシャツにハーフパンツ。舳丸には黒のTシャツとハーフパンツを着させた。
難しかったのはボタンぐらいで、あとは上から被ったり下から穿いたりするものばかりだったので大丈夫だったのだが、一つ重要なことを忘れていた。

「あとは……あーしまった。靴を忘れてた」
「靴?」
「草履みたいなものだよ。まいったな。さすがに靴はないぞ」
「俺らは裸足でもかまやしねぇよ?」
「駄目。君達の時代ならともかく、この時代じゃ絶対に目立つ。それに足が傷つくし危ない」

さてどうしたものかと悩めれば、疾風がそう言ってきた。だけどさすがに裸足は目立つし、傷口から菌でも入ったら大変だ。

「う〜ん………そういえば、君達海にいたらいきなりここに来たって言ったよね」
「ああ」
「なら仕方ない。今日のところは草履で行ってもらってもいい?一番最初に靴屋に行くから」

いきなり来たのなら草履を履いたままだろうと言えば、確かにあったようで頷いてくれた。少し目立ってしまうが、足元なんてあまり見ないだろうと思うことにする。
これでなんとか身支度が整ったと改めて彼らを見てみた。

「……なんか蜉蝣ホストみたいだね」
「ほすと?」
「えっと。お酒とかを女の人と飲んで、お金を落としてもらったり貢いでもらったりする仕事の人、かな?」
「「ぶはっ!」」

私の言葉に吹き出した疾風と義丸が蜉蝣に殴られてるのを横目に見て、残りの彼らを見る。

「でも特にファッションとかに気を使ったわけでもないのに、皆顔が整っているから見事に似合っているね」
「そうですか?」
「うん。傷とかあるから蜉蝣とか疾風はヤクザにも見えるかもだけど、それでもイケメン」
「……ありがとうございます」
「おれは!?」
「重も似合っているよ」
「ほんと!?おれカッコイイ?」
「カッコイイというか可愛いかな」
「えー……」

義丸とか本当に14かと思うほど色気出ているし。
照れたように笑った鬼蜘蛛丸。舳丸が小声でお礼を言ったのが聞こえ、舳丸も照れたのかと驚いた。

「よし!じゃあいよいよ買い物に行こう!」
「はーい!」

重が元気よく返事をする。それを微笑ましく思いながらも、必ず守ってもらいたいことだと前置きして真剣な表情で彼らを見る。

「重は絶対に誰かと手を繋ぐこと。他のみんなも絶対に一人で行動しないこと。車っていって、鉄の塊が走っているから飛び出したり走り出したりは絶対にしないこと。いいね?」

それに彼らも真剣な表情で頷いてくれた。家の中や今までのやり取りで少しは分かっているのか、特に疑問の声が上がることもない。
私自身も支度をして準備完了。

いざ、買い物へ。

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