当面行来禁止中(1)

あっという間に夏休みは最終日。
勇太は宿題のプリントをやり残していたらしく、今日は美空一人でデッカードに会いに来ていた。

「…」
『ミソラ…ドウシタ』

美空はデッカードの足元で体育座りしていた。表情は伺い知れない。

『ハソン、シタ…?』
「いや……明日から学校が始まるの」
『ガッコウ…ベンガク、マナビヤ』
「うん、あのね…不安、なんだ」
『ナゼ』
「一度事故で学校から離れていて、周りと遅れてるし…」

(事情がどうであれ留年しているし…)

それに事故の被害者、記憶障害というだけで周りは、美空を、友永家を、好奇の目で見たりするだろう。
それが嫌だ。彼等は何も悪くない。

『ミソラハ、センセイ。ダイジョウブ』
「…デッカード?」

美空の声に反応し、返事をするデッカード。
でも。

(慰められた…?)

『ミソラ、ヤサシイ、ダイジョウブ…ワタシハ、私…は』
「えっ……デッカード?」

彼女が振り返った途端。

「デッカード!美空お姉ちゃん!おはよう!」
「お、おはよう勇君」

通気口から勇太がダイブしてきた。

「ごめん勇君、私も用事があったの…明日から高校だから準備しないと。だからもう行くね?」
「ええ〜!ボク今来たばっかりなのにぃ!」
「ごめん!!デッカードが寂しくないように相手してあげて!…ね?」
「もう、美空お姉ちゃんったら〜…高校が始まっても時間が合う時はデッカードと3人で遊ぶからね!約束だよっ!」
「……うん、時間があったらね!」
『ヤク、ソク…』
「「約束だよ!デッカード!」」

笑顔で約束する美空。
通気口に向かい、柵に手をかけた時。
彼女の顔に笑みは無かった。