「じゃあ、挨拶してくれ」
「はい。諸事情につき留年致しました、白星美空と申します。私記憶障害で、以前会ったという方はすみません。申し訳ありませんが覚えておりません。いろいろご迷惑をかけるかと思いますが、これからよろしくお願い致します」
「企業面接に行くなら満点な敬語だな〜白星」
「ありがとうございます」
ざわつく教室内。そりゃそうだ。
美空がさらっと重い事柄をカミングアウトして、担任はツッコミもしないのだから。
「白星の席は…友永の隣だな。はい友永、手挙げて」
「はい」
「おぉ〜あずきちゃんか、隣。」
「これからよろしくお願いしますね、美空さん」
「うん…ごめん。やっぱりいつも通りでいいや」
「そうね、美空ちゃん」
混乱する周り。
笑顔で自己紹介をしろという担任。
そして教室に入って僅か数分で自分のペースに持っていった美空。
こうしてツッコミ不在の教室で、彼女は新たな高校生活をスタートするのだった。「…金糸雀は言いました。【キミは贅沢者だね。】アリは言いました。【貴女は可哀相だね。】その言葉に金糸雀は黙りました。いつもの囀りは、その日から」
「ぴたりと止んでしまいました…」
勇太は持っていた教科書をパタリと閉じた。
「美空お姉ちゃん…今日も来ないのかな」
『…ミソラ』
「もう9月も終わっちゃうよ〜…」
音沙汰も無く。
約1ヶ月もの間、美空はデッカードの前に姿に見せず。勇太はふてくされていた。
「最近あずき姉ちゃんは元気無いし…」
勇太から出たため息が、薄暗い倉庫内にぽとりと落ちた。