当面行来禁止中(3)

美空は激怒した。
このどうしようもないアホに説教を垂れてやらねばと、内心服の袖をまくった。
それはある授業が終わってからの小休憩時に起こった。

「白星さん……あのね、白星さんの事故の原因。聞いちゃったんだ」
「あ、そうですか」

突然話しかけてきた同じクラスの女子。
名前は覚えてない。見た目派手なその女子は、どうやら職員室で先生方の会話を聞いてしまったらしかった。
まぁ知られてしまったならしょうがない。そう言うために口を開こうとしたら。

「白星さんは忘れてるから、友永さんに良いように利用されてんじゃないの」
「…は?」
「つーか、よく人かばって代わりに轢かれるとかできるね?馬鹿じゃね?」

人の言葉が理解できなかった。クラスがしんと静まり返る。
物音に気がついた。激しい、自分の心臓の音だ。

(あ、止まらない)

「…ぁ…いの」
「え?」
「馬鹿はそっちだろうが!!何も知らない癖に難癖付けるな配慮や沈黙という言葉が貴様の脳みそにはインプットされていないのか?だろうな!」
「はっ…はあ!?」

マシンガントークに混乱しつつ罵倒されているのは分かったようだ。相手が怒っているが知ったもんか。

「いいかよく聞け。お前の今の発言は馬鹿の発言だ。友永さんがどうした今は私が私だ。私が私を律することができ動かすことができるんだお前がどうこう言ったって以前の私は変わらない。記憶障害になったって今の私が望んだならそれが選択肢で答えだ!!無知な輩が私を語るな迷惑だ!!」
「…な、なによ!人が気にかけて」
「いらん!誰も頼んでない!!二度とあずきちゃんの悪口を言うなこの脳細胞死滅女!!」

絶対許さん。という気持ちを込めて。

「うっさいわよこのイかれ女!」

腕を振りかぶりながら馬鹿女が走って美空に向かって来た。
クラス内で悲鳴が上がり、タイミングよく友永あずきと担任も戻ってきてしまった。

「美空ちゃんっ!?」
「白星!?」
「…ふんっ!!」

美空に背負い投げされた女が、教室の隅まで吹っ飛んだ。
幾つもの机をなぎ倒し椅子や教科書を巻き込みようやく教室の隅に、担任と友永あずきの前で止まる。

「撤回しろ」
「ひぃっ!?」
「発言を、撤回しろと言ったんだ。何度も言わせるな!!」

ビシッ!と人差し指で話しかけてきた同じクラスの女を指差す。

「と…友永さん、すみませんでした…」
「え?い、いえ」
「今度から人と会話する時はもっと相手に配慮しなよ」

なんてことがあって。
落ち込んだ友永あずきを美空が慰めたり、担任に説教されたり(ほとんど心配かけるなとかだけど)したために最近はドタバタしてた。
そんなことをしている間にテスト期間に入ってしまい、なかなか勇太とデッカードと遊ぶ時間が作れなかったのだ。

「デッカード……はぁ…」

会いたい。
けど、会いたくない。
少しずつ原作に、アニメ通りに進んでいる今。

(そろそろ超AIに心が芽生える頃だ)

飛ばし飛ばし見ていた美空は知っていた。

【友永勇太がデッカードの世界で一番大切な人】だと。
この世界は勇太とデッカード達が周囲と交流して成長していく物語。なのに。

『ミソラ、ヤサシイ、ダイジョウブ…ワタシハ、私…は』
「えっ…デッカード?」
(私との会話で…)

彼、デッカードの心は勇太君が作るんだ。私じゃない。
そのことが、美空の足を二人から遠ざけた理由だった。
彼に心が芽生える時が何時か、詳しく覚えていないからこそ早い段階で遠ざける。

(存在も記憶も曖昧で…そんな私が、デッカードに大切なことなんて教えてあげられる訳がない)

どうやって誘いを躱そうか考えていた美空。
しかし、現実は非情である。

「美空お姉ちゃん!」
「…やぁ勇君」

校門前で待っていた勇君に捕まった。

「あずき姉ちゃんから聞いたけど、今日でテスト期間終わったんでしょ?」
「うん。楽勝だったよ…数学以外」
「お姉ちゃん、今も数学苦手なんだね」
「みたいだね…うわあぁ疲れた」

だるそうに会話する。暗に今日は帰りたいという雰囲気を出してみるが。

「あのね、デッカードがお姉ちゃんに会いたいって!」
「?勇君じゃなくて?」
「ボクもだけど…きっとデッカードもそう思ってるよ!見せたいものもあるんだ!」

左手を捕まれた美空は、上手い言い訳も考えられずデッカードの下に連行されるのだった。