当面行来禁止中(6)

翌日。

「お、おはようデッカード!」
「お、おはよう美空…」

ぎこちない二人。なのに、

「今日は一日中暇だから、ゆっくり出来るよ」
「そうか」
「何したい?」
「…君を独り占めしたい」
「はぁ!?」

デッカードの爆弾発言に、ボフン!と音が鳴るように美空の顔が赤く染まる。

(ぜっ、前世でもそんなこと言われたことないよ!)

「デッカード…お願いだから、ホイホイそういうこと言わないでね」
「ホイホイ?私は美空に自分の気持ちを」
「い・い・か・ら!!」
「わ……分かった」
「ヨシ」

(世のお嬢様方にきゃあきゃあ言われるぞきっと…)

黙ってしまう二人。
チラチラと美空の様子を伺うデッカードは、彼女を怒らせたと思っているようだ。

「美空…」
「なに」

照れてぶっきらぼうな返事になる美空。

「君の笑顔が見たい」
「天然か!…って、さっき言ったよね。この確信犯!」
「美空が好きだと、大切で側で笑って居てほしいと思うのは犯罪なのか…?」
「うぅ……」

(アイセンサーうるうるさせないで!)

持ち上げられて見つめられる。
無知故の純粋さに、なんだかこちらが悪いことしている気分だ。

「罪だなんて……て、照れちゃうから!あまり言うと有り難みも無くなる気がするし!ね?」
「ふむ…そういうものなのか」

頷いたデッカード。
しかし、降ろしてくれない。

「あれ?」
「今日一日中、このままで居てほしい」

(そんなに寂しかったのだろうか?)

「…トイレ以外ね」
「了解」

そう言うと美空は鞄から膝掛けを出して、座布団代わりにする。
デッカードと掌の上で向かい合い座ると持ってきた本を読み始めた。

(…たまにはいい、な?)

視線を感じる。

「これじゃあデッカードが暇だね。やっぱり本は止めよう」
「!」
「最近何してた?」

デッカードに話題を振ると、嬉しそうに話し始める。

(さっきまで指が構って欲しそうにウズウズ動いていたからなぁ…)

「ここ1ヶ月は勇太が朝方と夕方来てくれていた」
「うんうん」
「午前8時から午後14時、午後20時から午後22時まで私のボディの整備が行われるため、勇太には隠れていて貰うか早く帰ってもらっていた」
「そうだったんだ…」

その言葉を聞いて美空は一日のスケジュールを頭の中で組み立てる。

「じゃあ……あれ?今日はボディの整備は無いの?」
「あ…」
「え」
「……冗談だ。今日は午後20時の時間帯だけだ」
「あ、焦らせないでよデッカードっ!」
「あははははっ、すまない美空」

あの日心が生まれた彼は、嬉しそうに笑う。
シャットダウン後から滑らかに話すようになったデッカードは本当に人間のように反応する。

「もう…」
「美空?」
「ただでさえ会える時間短いのに、もう帰らなきゃいけないなんて寂しいじゃん…」
「美空……」

近づいてきたデッカードの顔に抱きついてみる。

「…あ〜、栄養補給」
「栄養補給?」
「うん。デッカードを今補給中」
「私を…?食べるのか?私は機械だから食用ではないぞ」
「違ーうっ!食べないよ!友達食べるってどんなスプラッタ!?…気分、気持ちの比喩だからね」
「分かった」

雑談しているうちに美空が着けていた腕時計は12時過ぎを示していた。

「あ、お昼ご飯の時間だ」
「お弁当は美空の手作りかい?」
「うん。デッカードは何か食べたり補給しないの?」
「私には専用オイルが用意されているが、今は補給の必要は無い。あまり動き回っていないからね」
「そっか…いつかデッカードが警察官になったら、一緒にご飯食べよう?」
「あぁ、約束だ」

二人で笑い合いながらだと午後もあっという間に過ぎていき、デッカードのメンテナンスの時間が近づく。

「もうこんな時間…」
「何だか今日は、時が経つのが早く感じた」
「そっかぁ!」
「?」
「デッカード」
「何だい?美空」
「今日はありがとう。楽しかった!」
「そうか、楽しいと時間が早く感じるんだな…美空。私も楽しかった」

話しつつ入り口まで運ばれる。

「美空」
「なに?」
「…」
「……デッカード?」
「…いや、君がまた来てくれるのが楽しみだと思って」
「私まだ帰ってすらいないよ。でもありがとう。またねデッカード」
「ああ」

通気口に美空の姿が見えなくなると、デッカードは切なそうにため息をついたのだった。