距離感が分からない(3)
「えっ?」
「有無を言わさず基地に連れてきてしまったからね。特に私は、スパイクやカーリー、ハウンドやバンブルのように顔を見てくれなかったから」
「…ごめんなさい。あの時の、サウンドウェーブってトランスフォーマーの言葉で争いが起きたせいか。バイザーが怖くて」
「バイザーが?ふむ…」
「嫌いになられるなら私の方です。助けてもらったのに、ちゃんとお礼も言えなかった」
《なまえが何か言いたそうにしてたのは、皆知ってたよ》
「ハウンドさん!怪我は大丈夫?」
気にかけていたハウンドさんからの通信に、思わず運転席の背凭れにしがみつきながらスピーカーに向けて話しかける。
《あぁ、平気さ。君は?》
「大丈夫だよ。ハウンドさんや皆が守ってくれたから」
《それが分かって安心したよ》
「あ、あのねハウンドさん。朝言えなかったけど、本当は今日外に行こうって声掛けてくれて、嬉しかった。ありがとう」
《お礼ならマイスター副官にも言ってあげてくれないか?今日行った場所は、彼が教えてくれたんだ》
「ハウンド!それは秘密にと」
《"嫌われてるから"秘密にしてくれ、と言っていましたが?》「それはそうだが…」
狼狽えたような声。
以前話し掛けてもらった時はユーモアに話題を提供してくれたり、スマートな語り口だった。そんな彼とは違う反応に、ハウンドさんの言葉が本当のことなんだと気づいた。
「あの、ありがとうございます。好きですよ」
「!?」
「一番最初助けてくれたし、優しいし…どうしたらマイスターさんに伝わりますか?」
背凭れを抱き枕のように両腕で抱き締める。口下手で人見知りする私としては嫌っていないと口にするだけで、顔に熱を持っていた。
(恥ずかしい…)
「そう思ってくれていたなんて、嬉しいよ。ありがとうなまえ」
「い、いえ…」
「これからは、私も部屋に遊びに行ってもいいだろうか?君と仲良くなりたいんだ。もっと、ね」
「はい。私もです」
「さて、まずは基地にエスコートさせてくれるかな?お嬢さん?」
「お、お嬢さんて柄では…」
「ハハハ!すまない。少し浮かれているようだ」
「い、いえ…あぁでも、マイスターさんは王子様みたいでしたね」
「そう、なのかい?」
「はい。昔見た映画や漫画に出てきそうな感じで」
素敵でしたと続けるが、返事がない。
「あの…?」
「参ったな」
「?」
「あまり持ち上げられると、後が怖い」
「ご、ごめんなさい?」
「スパークが熱を持って爆発してしまいそうだよ」
「爆発?!えっ?えっ!?」
「物の例えだよ」
「あぁ、びっくりした…」
「つまり、あまり私を喜ばせ過ぎないでくれ。ということだ」
言い聞かせるように、どことなく嬉しそうな口調で言われて。私は生まれて初めて、宇宙人相手にときめいてしまった。
返事に困っていると、スピーカーからいきなり叫び声が聴こえて肩が跳ねる。
《大変だ!司令官が!》
《甘酸っぱさにやられたんだ!崖から落ちたぞー!》
《ホァァアアアアッ!!》
「…」
「…」
サイバトロンの皆が盗み聞きしていたことに気づいたマイスターさんと私。車内の空気は固まった。
「は、恥ずかしい…」
「すっ、すまないなまえ。このまま皆と話す良い機会になればと、通信を繋げていたのを忘れていた」
《ごめんねなまえ!》
「バンブル君…」
《マイスター副官が嫌われていないか心配でさ!だってなまえを気にかけてあげてねって最初に言ったのも副官からで》
「こらバンブル!」
《てへっ!》
《よかったですね副官!なまえは貴方を好いているそうですし》
《司令官は俺達が引き上げるから、これからデートしてくればどうだ?》
「す、好いているって、嫌いじゃないって意味で…というかもしかして全員さっきの聞いて」
《あぁ》
《おめでとう》
《式はいつするんだ?》
複数人から同様の返事が来て、恥ずかしさのあまり私は泣いた。
困ったマイスターさんに連れられ基地に戻ったが、そのまま自分の部屋に引きこもったのは言うまでもないだろう。
(これからどんな顔して会えばいいのさ!)
(困った。意識してしまうな…)