感傷的甘味料(1)


「そんなに仕事が大事なのかよ」


12日の夜、仕事を終え帰り支度をしていると恋人に電話で呼び出された。
待ち合わせ場所のレストランで長々と私についての不満を語り喚き散らしつつ、ちらちらと反応を窺う男が放った冒頭の台詞。

「お金がなくてひもじいよっーて言ってたのはどなたでしたっけ?従業員の給料も家賃も払えず、毎日山崎冬の豆パン祭りしてる銀さんに言われたくありませんよ」

努めて冷静を装って言うが、ボロクソに悪口を、しかも恋人にわざわざ深夜に呼び出されて言われ、疲れた身体と心にその言葉達は深く刺さった。

「私に対してご不満でしたら、どうぞ?此処に呼んだのは別れ話するためでしょうどうせ」
「なっ…違っ」
「じゃあなんなんですか!」

力いっぱい拳でテーブルをぶん殴る。
店内に鈍い音が響くと同時に、床に店員を呼ぶベルが転がり落ちて喧しい音を立てた。

「…」

だんまりの銀さん。
私はぼんやりと床のそれを眺めていたが、ふとそれを拾い、押した。

「…御注文は」
「苺パフェ、ごま団子、バニラアイス、みたらし団子、キャラメルパフェお願いします」
「かしこまりました」

表情の乏しいウェイトレスが注文を取り、厨房へ向かった。

「私の料理が不味いんでしょう?これなら食べれますよね」
「…なまえ」
「あなた好みの甘い物ですよ。あ、もう来た」

早速注文の品がテーブルに広がる。

「以上です」
「ありがとうございます」

先に会計を済ませれば、後はもう。

「銀さん、もう話すことないんで帰ります」
おやすみなさい。と言うとすぐ私は店から飛び出し、タクシーに乗り逃げだしたのだった。

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