劇的に彩って(8)

式当日。
従業員に着付けと化粧をしてもらい、かすがと市と店を出ようとすると。

「なまえさん!こっちに来てくださいませ!」
「はい、なんですか?」

もうどこか汚しちゃった?と急いでまつの側に行く名無し。

「他の方には内緒ですよ?」
「はい?」

後ろを向かされて香水をつけられた。

「…全てはなまえさん次第です」
「……」
「どうか、勇気を持って」
「…努力してみます」
「はい、では!行ってらっしゃいませ!」
「行ってきます」

肩をポンと叩かれ、友人の元へ向かう。

「行こう、タクシーは二台呼んである」
「二台?」
「飾りや帯が崩れないようにな」
「なまえは次のに乗って…?」
「うん、わかった。待っててくれてありがとう」
「いや…、じゃあ会場でな」
「また後でね」

タクシーに乗って二人は先に会場へ向かってしまった。

「いつ来るかな?」

店の玄関横で待っていると、予約の人だろう。なまえを横目で見ながら会話して通り過ぎる客が次々と店に入っていく。

「……」

そんなに似合わないんだろうか…。自分では気に入ってた姿に不安になる。
足元を見つめていると白いものが。

「雪…」

だから寒かったのか、と空を眺める。彼の赤い髪と白い雪はきっとよく映えるだろうと笑っていると、足音がなまえのすぐ前で止まる。顔を向けると。

「…ふ、風魔くん」
「……」

なぜ彼が。

【タクシーは二台ある】
【なまえは次のに乗って…?】

「…」

友人に謀られたことに気づき急いで連絡を取ろうとケータイを開くと、かすがからメールが一件。
本文はたった一行。

【礼はいらない】

「…」

無言でケータイを仕舞うほかなかった。

「えっと…久しぶり?」
「…」
「もしかして、かすがから頼まれた?…ごめんね、迷惑かけて」
「…」

一回目は縦、二回目は横に首を振った風魔。そしてなまえの手を掴み、駐車場へと歩きだす。

「え?タクシー、じゃなくて…自分の車で来たの!?」

コクリと頷き、一台の車まで来る。エンジンはかかっておりなまえのために扉を開く。

「あっありがとう…って風魔くんごめんなさい!」

乗ろうとし、何かに気づいたなまえは風魔に声をかける。

「少し屈んでくれる、かな?雪が積もってて…」
「……」

すぐなまえの手の届く距離にきた彼。
すんなりと触れる位置にきた好きな人に、心臓が暴れて仕方ない。

「じゃ、あ…失礼して」

ゆっくりと髪に触れ雪を払う。

「待たせてごめんね」
「…」
「今日は風魔くんも着物なんだね」
「…」
「その…かっこいいね」
「…」
「勝手にスーツ想像してた」
「…」
「それで、勝手に今日来ないと思ってた」
「…」
「私、来るつもりなかったんだ。でもいつの間にか同窓会にも行くことになってて」

独り言のように言う。

「でも、来てよかった」


会えただけで、泣きそうだ。

「はい、ありがとう。足大丈夫?」
しばらく同じ体勢だったのだが、表情ひとつ変えない風魔。頷くと彼女に車に乗るように促す。

「失礼します」

静かに車は走り出した。


「…」
「……」

沈黙が車内を充満する。
酔いそうだ。

「風魔くん、酔いそうだから…もしよかったら、音楽かラジオをかけてくれるかな?…ごめんね」
「…」

首を横に振り、赤信号で手早く棚の一番上にあったCDをプレーヤーにセットし再生ボタンを押した風魔。
車内に音楽が流れ出す。

『あんまりソワソワしないで〜、あなたはいつでもキョロキョロ〜♪』

素早く指が停止ボタンを押した。
車内に沈黙が流れ出す。

「…え?」

固まるなまえ。
ラ●ちゃんが今…。
思わず風魔の顔を見ると、耳まで赤く染まっている。

「ラ●ちゃん…」
「…」
「風魔くんはラ●ちゃん好きなんだ?」
「…!」

激しく首を横に振る風魔。首まで真っ赤だ。

「あはは!わかったよ、ごめんごめん」
「…」

きっと緊張をほぐす為に考えてくれたんだろう。気まずい雰囲気は薄れ、会場についてもそれは続いた。

prev Shortへ next topへ