流るるままに(2)
だだをこねてもしょうがないので渋々、本当に渋々承諾した里美。ちょっと涙目である。
準備があると言って大人二人が部屋から出ていった途端小さくため息をつくと。
「さとみ?…だいじょうぶ?」
「ぁ…すみません、梵天丸様。てっきり一緒に出ていったと思ってました」
悩みすぎてすっかり忘れてた。
深く考え込んでしまうのは私の悪い癖だ。と思いながら梵天丸に返事するさとみ。
「…」
「??」
(頬を膨らませて、拗ねている……?)
「様なんていらない……」
「あ」
そういえば呼んだな。礼儀正しくしないといけないから。…今さらだけど。
「名前で、呼んで?さとみ…」
どうしよう。すっげえかわいい。
でも。
「…馴れ馴れしい人は嫌いなんです」
「!!」
「自分が嫌う人間にならないためにも…私は……」
前の世界ではたいして仲が良くなくても名前を呼ばれる上辺だけの付き合いに精神はすり減り、結果相手は勝手に幻滅して私は棄てられた。
「でも、もし友達になってくれるんだったら……頑張って慣れるから。私も名前で、呼んでください」
梵天丸くんと、仲良くなりたい。
閉めきられた部屋の中で響いた願いは確かに、お互いに届いた。
しばらく沈黙に包まれた後顔をあげるとお互いに目が合って、ちょっと恥ずかしくなりながらはにかめば、もう暗い空気は払拭された。
「お友達で、いいんだよね?梵天丸くん…」
「うん!今日からさとみとおれは友達だっ!」
二人で頬を朱くして笑いあう。
「あ!」
「どうした!」
顔合わせのことをすっかり忘れてた!と里美が叫ぶ。
「あのね、ご飯の時もだけど、武家の礼儀作法を知らないの…。ぼ、梵天丸くんの友達として、恥ずかしくないようにしたい」
素直に気持ちを伝えるのが恥ずかしいのかまた赤くなる里美。
「…ぁぅう」
と梵天丸。
二人でどうしようと頭をひねっていると今度は梵天丸が叫ぶ。
「喜多に頼もう!」
「キタ?」
「小十郎の姉だ!」
「姉?」
脳内にオールバックの"姐さん"が思い浮かぶ。
すこし青ざめながら連れていってくれる?とお願いすると快く返事が返ってきた。
「じゃあ行こうか?」
「おう!…ぁ」
里美が戸を開けて敷居を跨いで部屋の外に出るが、梵天丸は部屋から出るのを躊躇した。
「梵天丸くん?」
「…だいじょうぶ!」
そう吼える(この表現がしっくりくる)と、梵天丸は里美の手を取り走り出した。
「喜多ぁあ!」
「まぁ!梵天丸様!」
走りながら叫んでいると、向かいから着物の来た品の良い女性が急いで近づいてきた。
「さとみ!喜多だ!」
「ありがとう、梵天丸くん!」
キラッキラッした笑顔で見つめられると幻覚で尻尾と犬耳が見えてきた。
よしよし、と口に出しながら頭を撫でるとふにゃふにゃと笑うのでこちらもふにゃふにゃになる。
「梵天丸様こちらの方は?喜多にも紹介してくださいませ」
「おう!えっとさとみは」
「梵天丸くんの友達です」
「!」
「そうなのですか?」
「おう!そうだ!」
「友達もそうなんですけど、これから輝宗様から紹介される予定の客人です」
「さとみは武家の礼儀作法がわからないから教えて欲しいって言うから、喜多に聞けば分かるって!だから一緒に来た!」
「──左様でございましたか」
「あ!布団ありがとうございました。敷いてくださった方によろしければお伝え願えますか?」
「はい、承知しました……里美様とおっしゃいましたか?」
「あ、はい」
「では基本的な作法をお教えしますね?」
「ありがとうございます!よろしくお願いします!」
「私のことは気軽に喜多とお呼びください」
「はい!」
(さぁやるぞ!)
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