天津風(4)
「やらかした」

どこを見渡しても同じに見えてしまう。

「なんてこった迷子だ遭難だどこなんだこのままだと不審者だ」

ブツブツ言いながら歩く。自分の部屋を今通り過ぎた事にすら気づけていない里美は、しばらくそのままさ迷う。
すると何かが割れる音がしたので辺りを見渡すと、通路の少し先を歩いていた女中が積み重ねていた膳を落としたらしい。しゃがんでいる姿が見えたので手伝いに行く。

「大丈夫ですか?」
「えっ?」

駆け寄って割れた食器類を拾う。

「いけません!客人の方にそのような!」

あわあわと慌てふためく女中を尻目に、こぼれたおかずや破片を膝を付いて片づける。
お膳を重ね、拾い集めた物を乗せ声をかける。

「どこに運べばいいですか?」
「いっ、いいえ!後は私が運びますので御客人は」
「あ…すいません。迷惑ですよね」

ガーン。
背後にそんな効果音を背負って落ち込んでみる。

「いいえ!そのようなことは」

動揺した声が聞こえる。

「よし!なら行きましょう!」

ポカーンとする女中さんを見ながら歩き出すと焦って呼び止められた。

「あ、あのっ!逆方向でございます!」
「え!」

その後女中のお悠さんと喋りながら厨(今で言うキッチン)に行き「私とぶつかりました!」と女中頭さんにごり押しで意見を通す。
廊下にまだ破片が残っているかもしれないこと、そして着物を着替えたいので手伝いを頼むとみんな快く返事してくれ、手を振って別れた。
ちなみにちゃんと道を教えてもらった里美。

(これで大丈夫。でも、なんで何もないところで物落としたんだろう?)
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