天津風(5)
部屋になんとか辿り着き、ぼんやりしていると外から声をかけられる。
「里美様、お悠でございます」
「あぁ!すいませんどうぞ!」
静かに襖が開けられ女中のお悠が入ってきた。
「里美様?いかがいたしましたか?」
じっと見ていると声をかけられたので思ったことを口に出す。
「上品な所作だな…って」
「ありがとうございます。着替え、お手伝いさせていただきますね」
「あ、はい」
テキパキと淀みない手つきで、鍛錬のため作務衣を着付けてもらう里美。
沈黙を紛らわすためにまた口を開く。
「……私は礼儀作法が全く分かりません。でも女中さん達を見ていると動きの一つ一つに配慮っていうか…気持ちが入っている気がして。見習いたいなと思っていたんです。良かったら教えて頂けませんか?礼儀作法。喜多さんには伝えてあるんですけど……あ、あと着付けも…」
頭を下げてお願いすると。
「頭をお上げください!後ほど他の女中等と相談します」
「ありがとうございます!やった!」
苦笑いされた。
「担当の者を決めましたらお知らせいたしますね」
「忙しいのにすみません」
謝るとすぐ笑みが返ってくる。
「いいえ。実は里美様と話してみたい女中がたくさんいるので。里美様もきっと忙しくなりますわ」
「あははっ、楽しみにしてますね!」
なんて話していると着替えは終わり、再度お礼を言った里美は道を訊きつつ鍛練場に向かった。
日は高く昇りきり、秋が終わり冬に入ろうとしているにしては暖かい。
入口からでさえ伝わる熱気が籠もる鍛練場に史絵美は着いた。此処だけ夏のようだ。
「すぅー…はぁー…よし」
深呼吸し落ち着こうとする。前回は応援してくれる人達がいたが、今回は違う。
里美はゆっくり入口の敷居を跨ぎ近くにいた兵士と思われる男性に話しかけた。
「あの、朝はすみませんでした…お邪魔してもいいですか?」
「あ゛ぁ?…ってオイ!お前ら!天津風様がいらっしゃったぞー!!」
「え?」
周りにいた兵士達が歓声を上げる。
「え?え?」
「よく来てくださいました!」
「どうぞごゆっくり!」
あれよあれよというまに中心に連れて行かれる。
「あ、あの!」
声を大きくすると静かになる鍛練場。
「あの、
天津風って私のことですか?」
問いかけに一斉に頷かれる。「風を操り、ひらりひらりと舞うように攻守をこなすそのお姿!」
「繰り出された技はまるで龍の息吹!」
「ということで天に吹く風、天津風ってことなんですよ」
「へぇ〜…ありがとうございます」
照れる。
「でも皆さん方何か勘違いしてると思います。私、剣握ったことないんで技術を教えることなんて出来ませんよ?」
「「「えぇぇええええええええ!?」」」
これでも一般ピーポーですから。
ガヤガヤと先程とは違う騒がしさになる。
「じ、じゃああの技は?」
「ノリとテンション」
「海苔?天井?」
「えーと…その場の勢いと、気合い?に身を任せたら出ました」
「軽っ!」
総ツッコミを浴びせられる。この頃からノリがいいんだな伊達軍。
「期待に応えられずすみません」
(しかもあの技政宗、梵天丸くんのやつだから。未来の奥州筆頭ですよ)
なんて考えていると。
「じゃあなんなら出来るんすか」
声の方を見ると別の若い兵士。
「おいっ!客人に向かって…」
「だってよ…そこまで強いなら何か理由があんじゃねえかと思って」
ふーんと他人事のように話を聞く里美。
「私って強いんですか?」
こんな私が。
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