天津風(6)
ぼそり。
疑問が口からこぼれ、その場にいた者に拾われたようで。

「家臣団を倒しといて」
「俺らを馬鹿にしてやがる!」

キレられた。
しかし里美は断言し、続ける。

「ですが、現に私は負けています。一発で終わらせるなんて驕りもいいところですよ。私は強くありません。風の婆裟羅に助けられてる小娘で、その能力故弱くないだけです。この中のどなたか、城内の誰かが婆裟羅に目覚めて日々磨き上げれば。私なんてゴミですよ、路傍の石ころです。……私が弱くないのは、諦めなかったからです」
「なんだそれ…」
「諦めなかった、だけ?」
「それだけっすか?」

周りに問われる。

「…はい。周りが敵だらけで孤立しても。罵詈雑言を浴びせられても。蹴られ刺され殴られ無視され苦しくて泣きたくて泣いてしまって呆れられて見離されて馬鹿にされもうだめだ死にたいって思っても」

生きることに執着して、諦めないことです。
声援を送ってくれた梵天丸や、側で見ていてくれた小十郎達を思い浮かべて、結構大変なんですよ。なんて笑顔で言ってみるが、鍛練場内は静まり返り反応がない。

(あ、あれ?)

「えっと、つまり気持ちの持ちようが大事というか…あの、大したこと教えたり言えなくてすみません。これ以上出来ること無いので失礼します」
気まずく感じながら里美は入口まで戻り、あざっした〜と言うとすぐに出ていった。部活のノリで帰るな。
勢いのまま廊下を出てしばらく宛もなくうろつきいきなり止まると。
今まで止めていた息を思いきり吐いた。

「ぶはーっ!ひどかった。なに偉そうなこと言ってるんだよ自分!元々お前はヘボいだろうが…あぁ疲れた」
(しばらく黙ってよう)

そのまま縁側で座っていると顔色が悪かったようで通りがかった女中に回収される。
部屋まで案内され布団を敷いてもらい、お礼を言うと笑顔でお大事にと言われた。

「いい人だ…」

女中さんはいつも笑顔で大変だ、とも思いながら自分の荷物を枕元に寄せ携帯を開く。
腕時計は変わらず時を刻むのに携帯電話はおそらく屋上から落ちた際に壊れたのだろう。日付けも時間も動かない。

「まぁいいか」

携帯を閉じ布団に寝転がる。
此方の世界に来てから一日一日の密度が濃すぎる。
自分が今までどうやって一日を過ごしていたか、分からなくなる。
以前より自分がどこか変わってきたと自分で感じる。
それが良いことなのか悪いことなのか分からないが、疲れているのはそのせいなのかもしれない。
何事も曖昧に感じながら里美は眠りについた。
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