天津風(10)

「っごめんなさいごめんなさい!」
「!?お、おい。落ち着け」

里美は手を離さない小十郎にパニック状態になった。
前の世界でのいじめられた時の事が思い出されたからだ。

「やっ、はなして…」
「落ち着け。何もしやしない」

抱き寄せて、細くて折れてしまいそうな背中を子供をあやすように撫でる小十郎。

「梵天丸様を親しく呼んでいるのに、身分の下の俺に片倉様っつう畏まった呼び方は正しくないんだ」
「ひっ‥ぁ……こ、小十郎さん?」
「あぁ。それでいい、大丈夫か里美」
「は、はい。ごめんなさい、小十郎さん」
「気にするな」
「でも…」
「俺は、お前に嫉妬していた」
「え?」

唐突、そして意外な発言に驚く。

「梵天丸様に心を開いていただくのに、どれだけの時間がかかったことか。顔を見て、すぐ傍で笑顔で話していただくまで、何度部屋に足を運んだか…!」
「小十郎さん…」
「それを、たった一日か二日で!」

(そうか。まだ"あの"片倉小十郎じゃないんだもんな…)

でも。

「私には、理由が分かってます」
「なんだと…!俺のどこが至らねえ!!」

握られた手が痛い。
でも、そうでしょ?

「答えは…そこです」

里美が指差した先は。

「……俺だと?」「分かりきったことです。梵天丸君が私の側に来るのも笑顔でいてくれるのも全て、小十郎さん。貴方がずっと【それでいい】って。行動で、態度で、言葉で示して…梵天丸君がそれを信じているから」
「なっ…!?」
「自分が信じている人が信じているから、他人にも同じように接している。私は…そう思いますけど」
「…」

黙ってしまった小十郎さん。

(あの、この体勢はいつまで続くんでしょう)

「じゃあ、聞きましょう」
「…?」

お八つ時(現在で言う午後2時〜3時)
里美と小十郎は梵天丸の居る部屋に訪れた。


「失礼します。梵天丸様、里美をお連れしました」
「…?さとみ?入って!」

里美が先に、続いて小十郎が室内に入る。
障子を閉めたら作戦スタート!

「今日は誘ってくれてありがとうね、梵天丸君」
「おう!…小十郎と、仲直りした?」
「うん」
「その事で梵天丸様にお話ししたいことがございまして」
「なんだ?」

二人で顔を見て。

「はい。小十郎が詫びを入れたところ、里美は快く許してくださり互いに意気投合」
「私も、小十郎さんのことが知れて良かった…」
「あぁ。そして実は」
「輝宗様に許可を頂いて」
「里美と、め…夫婦に」
「ええええっ!?」

※嘘八百です

「これからはずっと梵天丸君と一緒だよ」
「これで俺も安心して視察に行く回数を増やせるな」
「えっ…やだぁ!小十郎っ!」

一気にまくし立てるように話したから梵天丸君は慌てふためいた。
でも、小十郎さんが遠くに行くと聞いた途端拒否した。

「行かないでぇー!こじゅうろぉ!」
「梵天丸様……」
「言った通りでしたね?小十郎さん?」
「…あぁ」

小十郎さんにしがみつく梵天丸君マジ可愛いと思いながらも口を開く。
ネタバラシしないと。

「梵天丸君」
「うっく…小十郎、はっ、梵天のだもんっ」
「梵天丸様…っ!」

ひしっ、と抱き合った二人。
コイツ等可愛すぎだ…!これからは箱推しする!!
※夢主はオタクです

「いや…嘘だから」
「…え?うそ?」
「嘘、です。申し訳ありません梵天丸様」
「小十郎さんが、最近梵天丸君と私が仲良いから嫉妬したの」
「おい!里美!!」
「小十郎?ほんと?」
「ぐっ……真です」
「なら、許す!」
「よろしいのですか!?小十郎は、梵天丸様のお心を疑って…」
「だってね、俺も…寂しかったから!おあいこ!」
「ありがとうございます、梵天丸様」

場が丸く収まったところで。

「じゃあ、おやつにしようか」
「うん!」
「茶が冷えてしまいましたな…淹れ直して参ります」
「「はーい!」」

一度退出する小十郎。

「さとみ」
「なに?梵天丸君?」
「こ…小十郎が好きなのか?」
「え?うん。好きだよ?梵天丸君と同じくらい」
「!…そうかっ!」
「?」
「ありがとう!さとみ!」
「どういたしまして」

(おれ、大きくなったらさとみを…)
(里美…)



「失礼します。茶が入りました」
「「待ってました!」」

ゆっくりと閉められる障子が外の秋風の侵入を許したが、それは室内でゆっくりと暖められていくのだった。
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