耳に当たる目に付く癪に障る(4)
無意識で能力を使い傷を治した史絵美。

(昔は石鹸無いし、消毒液は持ってるけど跡が残らないほうがいい。けど…まぁ、しょうがないか)

嫌われても。

梵天丸君は嫌だったのだろう。
未だに距離は取られたまま部屋は沈黙に包まれている。
攻撃されたと思われてもしょうがない。私自身にも能力の発動はいきなりだったし。

「…ごめん。怖いよね」

風のバサラで忍者を吹き飛ばし、また今度は風で癒やす。
…きっと変なんだ。警戒して当たり前だ。

「…じゃあ、運んでもらってさらに布団も貸してもらっといて申し訳ないけれど、もうお暇するね」
「!」
「いきなり能力使って本当にごめんね。まさか出るとは思ってなくて…。でももうここから出ていくし、使わないから。お布団どこに片づければいい?」

すごく気まずいし怯えさせてしまったし、これ以上目の前に不審者いたら気も休まらないだろう。

(私ならストレスで胃に穴空くわ…)

無事な姿を確認できただけで儲けモンだと思う。
ここは戦国時代。
身分が保証できない不審者なのだから、あのまま捨て置かれていても不思議ではない。
此処にいることが不自然だ。
そう思いながら出て行くことを告げ、布団を畳む。
しかし、なかなか会話の返事が聞こえない。

(畳んだら置いとけばいいか。失礼だけど)

これ以上梵天丸くんが怯える前に出ていこうと急ぐ史絵美。
すると後ろから何かの音がする。

(人を呼びに行った…?)

自分が不審者として捕まっていたには丁寧で不用心な扱い方に首を傾げ、布団を畳み終える。
そして振り向き、自分の荷物を探して部屋の中を見回すと。

「……っ…!」

目に涙を溜め下唇を噛み、着物の裾を握りしめている梵天丸くんが。

「えっ……と」
(ちょ、かわいいっ!じゃなくてどうした!?)

「…っ…ふっ、ぅ」
「あの…ごめんね!もう出て行くから!」
(ヤバいヤバい急げ急げ急げ急げ荷物どこマジなんで無いの!)

「!…ぅっ、えっく…ズズッ」
「!?」
(泣いたぁぁあ!!なぜにホワッツ?!あぁやべぇっうるうるしてる!うるうるしてるぅっ!)


脳内大パニック

とにかくなんとかしようと無駄に手をわたわた動かした後。

「ぼっ、梵天丸くん!!」
「……ん」

肩を震わせながらもこちらに反応し、返事してくれた梵天丸くんに向かい両手をバッと伸ばし叫んだ。

「Come on!!」
「かも‥?」
「間違えた!来い!おいで!!」

そう言うと、無言で駆け寄り腕の中にすっぽりと収まった梵天丸くん。
鼻をすするたびに跳ねる体。
落ち着かせるために背中をさする。

「ごめんね。寂しかったの?……そうだね、独りは怖いね。いっぱい忍者来たもんね。こじゅさん今居ないのに独りにしようとしてごめん。不安にさせてごめんね……」

話しかける度に頷く小さな頭を撫でる。
泣き止むまで、泣き止んでもしばらく同じ体勢でいると、もぞりと動く梵天丸。

「どうした?」
「なんでもない」
「……本当?」

と、聞くと。

「ありがとう……」

耳元でぽそりと言われた里美。
胸にこみあげる何かに突き動かされるように彼女は。

「どういたしまして!」

と言うと同時に梵天丸を抱き上げ、先程自分で畳んだ布団に飛び込んだ。

「うわぁ!」
「くすぐってやる!うおりゃーっ!」
「ぁぅっ!ま…ぁははははっ!」

二人でくすぐりあいながら布団をぐちゃぐちゃにするほどはしゃぐ。
やっと梵天丸が笑顔を見せてくれたことにほっとしながらギャーギャーじゃれあっていると。

「きゃーっ!ごむた」
「梵天丸様!!」

スパーン!

「い…な?」
「小十郎…?」
「!?」

今の体勢

上:梵天丸くん
下:私

怒鳴り凄まじい勢いで入ってきた小十郎さん。
ゲームより若く、頬の傷もないし髪を一纏めに結っている。
大声とすっ飛んで外れた障子にビビって固まっていた私。
とりあえず体の上に乗っている梵天丸くんを持ち上げ床に降ろすと。

「小十郎さん戻ってきて良かったね」

背中を押して向かわせた。

「小十郎っ!」

小十郎にダイブする梵天丸。
こちらを警戒していた小十郎だが、無事に梵天丸が側に来たときに眉間の皺が緩んだのを里美は見逃さなかった。
ほっこりとした気持ちで見守っていると話しかけられる。

「具合はもういいのか」
「はい、お気遣い感謝します」
(全身めっちゃ痛いけど死にゃあしないから大丈夫だろう)

本音を飲み込んで、里美は先程二人で埋もれていた布団から抜け出して身なりを整えた。
- 6 -
*前次#
トップページへ