異世界転生。 ヲタクの友人が夢見る展開だが、いざそうなってみるといい気がしないものだった。 そうなのだ、確かに夢のなかで神を名乗る大木からそう告げられていた。今になるまで忘れていたのである。 俄(にわか)には受け入れ難い話だったが、今この瞬間を生きているのだから、しばらくは考えないことにする。うん、そうしないとやっていられない。 カオリはソフィアとダンクスに連れられて森を抜けることにした。 異世界からやってきたということをすんなり受け止めたふたりにも驚いたが、実感が湧かないからとスルーできる自分にも戸惑いがあった。 実はかれらの住むメルクマンサ村には、かつて異世界からやってきたという女性がいたらしい。名はモニカ。アメリカ出身で、ソフィアの祖母の親友にして彼女の名付け親でもあるとのことだ。 しかしモニカはソフィアが幼い頃にすでに他界しており、ソフィアは彼女の記憶をほとんど有していない。 なるほどそれならばアメリカを知っていてもおかしくはない。 森のなかは見たことのない植物に溢れていた。地球世界にいたころのそれとそっくりなものもあるが、ほぼすべて別個体と言える。 時折羽の生えた小さな妖精が森のなかを飛んでいく。カオリが見つめるとみな驚いて逃げていくので、臆病な妖精なのだろう。 道中ダンクスに聞いた話によると、このメルクマンサ村はパノプリア大陸というところに属する辺境の国スィメアにあるという。 西洋ファンタジーよろしく剣や魔法や城があり、こうなると西洋ファンタジーというゲームや小説のジャンルは逆向きの転生者が持ち込んだものではないかと思えてくる。しかし今は気にしないこととする。 ただの夢だと思っていたが、転生前に対面した神と名乗る白い巨木は、セフィロトと名乗っていた。 「やあ、カオリちゃん。君は本当に可愛いね。できれば僕とデートしてほしいぐらいさ」 神と名乗る割には言動が軽いし、 「僕は神界一のイケメンなんだよ」 などと根拠薄弱なことを言い出す。 「本当にイケメンなら姿見せてよ!」 と尋ねようものなら、 「君にはこれから異世界に行ってもらう」 などとこちらの要望をスルーする。こんな神様がいる世界というだけで不安しかなかったが、取りあえずは一般的なテレビゲームの世界だと思っておけばよさそうだ。 あ、そんなことより神界のイケメンと人間界のイケメンじゃ基準が違いそうかも。 確かあの時能力を授かったはずなのだが、なんだっただろう? 本当にそんな能力が備わったのか確認するのが怖いそれだった気がするのだが。