「ふーむ」 「どうでした?」 「悪くないな。突然襲ってきたリザードマンを倒したし、下手な男よりよっぽど戦力になりそうだ」 カオリは構えていた剣を地面に向けた。 村に着くと、ダンクスが剣の型を見せてほしいと頼んできたため、剣道の基本モーションを披露していた。 戦争とは無縁になった国の剣技でも、ダンクスの反応を見る限り役には立ちそうだ。 ここは自警団の本部である。カオリの存在について団長に説明しているソフィアが帰ってくるのも間もなくだろう。 「やれやれ。これなら君に護衛は必要なさそうだな」 「護衛?」 ダンクスが頷く。 「君は狙われていたからな。そうでなくても慣れない土地に若い娘がひとり。不埒な輩に狙われんとも限らんだろう。まあこんな田舎町じゃせいぜいコソ泥ぐらいだがな。あ、まだ金持ってなかったか」 「そうでしたか」 「だから取りあえず今晩はソフィアんとこに泊めてもらえないか頼むつもりだったが、この様子だと必要ないな。あいつの家の近くに空き家があるから、そこを使ってもらおうか」 「えっ、でもモンスターは来なくてもまだひとりだと不安ですし、ソフィアちゃんのところの方が」 「それがよ、あいつんちのお袋さんが最近倒れてな。命に関わるような病気じゃないが、看病の邪魔になるようなことはできるだけ避けたいんだ。なにかわからねぇことがあれば俺に聞いてくれてもいいからよ。取りあえず一晩だけひとりで寝てくれ。お前さんの処遇はこれから話し合うから」 そこでダンクスに聞きたいことは山ほどあったが、さすがにキリがなかったために三十分ほどで切り上げた。 その内容をいくつか紹介すると、まず自身に差し迫った危険はないとのことだ。この村には危険な魔物はほとんどおらず、先ほどのリザードマンも今まで見かけたことがないという。パトロールから帰ってきた他の自警団員に尋ねても目撃証言はなく、取りあえずは今晩の危険はないだろうという判断らしい。 しいて言うならイタズラ好きのゴブリンがたまにいるので、食べ物は外に置かず(今晩は夕食用にパンのようなものをもらっていた)、しつこいようなら少し脅してやれとのアドバイスであった。 お金の単位はK(キュクロス)。幸いにもカオリの着てきたワンピースはこの世界でも違和感のない代物らしい。しかしやはりすぐにでも他の服がほしい。 この世界には魔法があるが、この村には強い魔法使いが常駐していないため、本格的な魔法の解説は今日は難しいと言われた。 またモンスターの分布でいうと、この周辺は世界的にも弱小クラスということである。 余談だが、森で羽の生えた妖精がいたことも尋ねてみると「見間違いじゃないのか?」と返されてしまった。