もう間近だった。幸い狭い道のため8体のキノコたちはほぼ縦並びの状態である。各個撃破ができなくとも先頭さえ足止めできればなんとかなる。 カオリは足元にある一本の枝を拾い、両手に力を込めた。 枝は急激な成長を始めて前方へと伸び始める。それが1メートルほどの長さになった時、再び集中して注力した。枝は一際太くなり、勢いよく突っ込んでくる先頭のキノコを突き刺した。人の顔でいえば鼻の位置が螺旋を描いて歪み、その身体を貫通していく。痛覚がないためか表情も変えずに手足をバタバタさせている。枝は更に伸びて後ろのもう一体にも到達するが、枝自体はじたばたするキノコに押されぐらぐらと揺れていた。 こんな環境じゃなかったら可愛くも見えるんだけど。カオリは溜め息をついた。このレベルの強度では暴れキノコにへし折られかねないだろう。 「まだ強くしないとダメか」 木の枝の太さが20センチを超えたころ、カオリはそれをリリースして剣を構えた。つっかえるように後続のキノコたちは押し合いへし合いをしている。 「ごめんね」 カオリはヴァイリーソードで前衛のキノコの右腕を切り落とし、その生え際から真横に薙ぎ払った。その身は柔らかく、まるでエリンギを包丁で切り分けているような感触である。そう思うと罪悪感も薄れる気がする。 シュワシュワとキノコの身体はとけていき、丸太には白い泡が残った。すかさず次のキノコに切りかかろうと身体を屈める。しかし移動体勢の見込みが甘かったようだ。カオリは自分で出現させた丸太に強かに頭をぶつけてしまった。激痛。手から剣が落ち、脳裏に収縮する星の絵が浮かんだ。思わず両手で頭を押さえたが、堪えきれずに悲鳴まであげてしまう。 「痛いっ! なんでよもーっ!!」 地団駄を踏んでも詮無いことだが、悔しさに涙が出そうになる。痛みに悶えながらも剣を拾ったカオリは、今度は注意深くキノコの列の左側へ回った。キノコの右腕の生え際を割くように剣を斜めに斬りつける。角度が悪く鋒が地面を跳ねるものの、剣を手前に戻しながらその胴体をV字型にきり取り去った。胴体上部がバレーボールのように緩やかな軌道を描いて飛んでいく。 実戦に余裕なんてない。カオリはすかさず2体目に向かって胴を打った。弾け飛ぶ白い欠片たち。摺り足を意識して最低限の動きで攻撃を仕掛ける。身体の一部を抉られただけで2体目は動きを止めていない。 だが木に突き刺さっていない3体目が間近にいるため、攻撃のモーションが大きくなれば隙となって殴り倒されてしまう。 カオリは体当たりをして2体目の前面に腰を押し付け、後方からの攻撃範囲を免れた。キノコの兵隊の胴体はやはり柔らかい。間近に見る顔は大きな目をキョロキョロさせていた。無表情でどこかおかしい。 だがもたれているはずのキノコがおかしな方向に僅かに傾いた。それに気づいたのは頭頂部にキノコの身体が触れたためだ。直後にキノコの傘が影を作り、右側へと緩やかな転倒を始めた。 えっ……? 慌てて身をかわすと、激しい音をたててキノコの兵隊が転げてしまった。前方が伸びた木に貫かれて押し合いへし合いになっていたわけだが、業を煮やしたのか4体目が3体目を押し倒してしまったことで前列2体もろともドミノ倒しになってしまったようだ。 巻き添えになって折れてしまった左右の木々の枝はバキバキと弾け飛んでいる。 決して知能は高くないらしい。そういう生き物なのか、或いは生まれて間もないのか。 カオリは一瞥して退路を確認する。だが残り4体はまだこちらをロックオンしていた。そう簡単には帰らせてくれないようだ。 キノコの腕は太く柔らかい。殴られてもそこまで痛くはなさそうだが、クリーンヒットとともに大きく飛ばされるのは必至だろう。そうなれば周囲の木々に叩きつけられてただでは済まないはずだ。 考えている暇はない。カオリは息を吸い込むと5体目のキノコに剣を差し込みにかかった。人間で言えば臓腑の位置だ。うまく核を突くことができれば倒せるかもしれない。 「えーいっ!」 何かに弾かれる振動。一縷の望みをかけた突撃が奏功したらしく、キノコは一瞬光を放ってドロドロにとけはじめた。 思わず溜め息が漏れる。 「あと3体……」 ならよかった。しかし振り返って見れば躓いていた3体も大勢を戻しつつある。脱出に時間をかかれば挟撃は避けられない。 次を何とかしないと。カオリは再び剣を握り、6体目へと向かっていく。 敵の動きは緩慢だ。大振りの攻撃ならば先手必勝で斬りかかるのみ。 ただどうしていつもの展開を予期していなかったのか。カオリは後になって考えた。 5体目を一撃で倒せたことは幸運だったが、そのまぐれも一度きりのことに過ぎないのだ。 低い重心で小走りに近づいていくカオリ。しかしあともう少しというところでカオリの右足が太い木の根っこに引っかかり、地面へと倒れ込んだ。 カオリの頭は真っ白になった。