今何時ぐらいなのだろう。あとどれぐらいで朝が来るのだろう。 異世界転生初日。このシチュエーションなら、誰でも寝付けないものだと思う。 しかしカオリが寝つけない理由は他にもあった。 カオリはソフィアに自分のあられもない姿を指摘され、その場で慌てて弁解を始めた。 しかしソフィアの「いいから早く服を着てください!」という忠告(おっしゃる通り過ぎてぐうの音も出ない)を受けて慌てて部屋に戻った。そしてその後自分が露出狂でも痴女でもないことを全力プレゼンしていた。 おそらく真意は伝わったと思うが、自分の間抜けぶりに益々眠気が遠ざかっていく。 どうしてこうなった。遅刻しそうになって慌てて通学路を走っていたら、角から猛アタックされてるけど正直好みじゃない男子が出てきてぶつかったぐらい不愉快である。 裸を見られたのがゴブリンと女の子のソフィアだけでまだよかった。今度あのゴブリンたちを見かけたら切り刻んで経験値にしてやる。 それにしても静かだ。カオリは薄っぺらい掛け布団を払って立ち上がると、窓際まで歩いていく。 星が明るい夜だった。ここからではよく見えないが、月のようなものが存在しているのだろうか? この世界は本当に地球によく似ている。 窓から見えるのは隣の家とその畑、そしてそこへ続いていく道なのだが、もう誰も外は歩いていない。 しいて変わったことを挙げるなら、外を火の玉が飛んでいる。これがもといた世界なら心霊現象と騒ぎ立てるのだが、魔法やモンスターを見てしまうとその驚きもなくなってしまっていた。 その白い火の玉は段々とカオリの立つ小屋の窓の側まで近づいてくる。 カオリは首を傾げた。この火の玉は自分になにか用事があるのだろうか。 白い光はこちらに近づくにつれてその輪郭をはっきりと浮かび上がらせた。白い光は小人のように小さな少女がまとう光だ。 背中には羽が生えていて、体には葉を巻き合わせたようなドレスを着ている。さっき森で見た妖精である。 妖精は窓越しの位置まで来ると、体をぴんとまっすぐに伸ばし、カオリの目を見つめたまま動きを止めてしまった。その表情はめずらしいものを見るような顔ではない。ここにいることを知っていて、目的があって来たのだろうか。 ……私を呼んでるの? カオリはためらいがちに窓を開いた。ダンクスにも危険はないと言われている。 きれい……。 すぐ傍にゆらりと宙に浮く妖精の姿。感情は見えないが、宝石を思わせる瞳の色が、神秘的な邂逅を実感させた。 モンスターとの接触以上に新鮮に感じるものがあったが、触れようとすれば逃げていくに違いない。なまじ人の姿をしているだけに、いきなり体を掴まれることは不快であろうと容易に想像がついた。 妖精はしばらくこちらを見つめると、ゆっくりと距離を取って小屋の庭のなかごろまで後退した。 そのまま帰ってしまうのかと思ったが、その妖精は再び動きを止め、こちらを見つめている。 やっぱり呼ばれている気がする。カオリは慌てて窓を閉めると、ドアから外の世界へ飛び出していった。