そこはやはり明るかった。 上天から降り注ぐ光のせいか、広場の真中に佇む花々は真夜中にも拘(かかわ)らず色の識別が可能だった。 花たちの周囲を半円形に水が流れ、そこから左右に水脈がのびて池を作り出している。まるで一流のガーデナーが設計したような空間だった。 花畑ーーもちろん畑ではないがーーの後ろにはただ広く池が存在していて、そこに寝ていたという自分はなかなかにメルヘンチックな転生の仕方をしたらしい。 まるで白雪姫か眠れる森の美女みたいだ。キスして目覚めさせてくれるのがイケメンの王子様なら悪くないけれど、それでも面識のない相手にいきなりそんなことをされて目覚めたら…………ううん、なんの話なのこれ。 カオリはくだらない妄想を投げ捨てて、夜空から落ちてくる光の柱の奥に目をやった。つまりそれは池を越えた向こうにある暗がりに立つ木々である。一度しか見ていないため自信はないが、なんとなく木が一本増えている気がした。 ふと、振り返ると妖精はいない。ここが目的の場所なのだろう。さてここで何が起こるのか。 10秒か20秒経った頃だった。木が軋む音がして、カオリは件(くだん)の池の向こうの木々を見つめた。 最前面の木は10メートル以上の高さがある。その木の中腹あたりで、緑色の光が輝いていた。 それは最初は小さく、目を凝らすと波打つように光が揺れているのがわかった。そしてその緑の光はだんだんと大きくなり、そこからなにかが飛び出してきていた。人の頭頂部だろうか。現実世界ではホラー映画でしか拝めない不思議な光景である。 カオリは、リザードマンの剣を握る力を強めた。 だんだんと姿を現してくるのは人のかたちをしたなにかである。肌の色は少し青っぽいが、鮮やかな緑に染まった長髪の美しい女性のようである。今彼女は胸元を過ぎて腰があらわになろうとしている。体には木の葉を集めて作ったドレスが巻かれていた。そう、妖精のそれと同じだ。 彼女は少しウェーブした髪で、目は瞑ったまま無表情な口元をしている。しかし彼女に羽はなく、身長もカオリと同じくらいである。 「ドリアー……ド?」 思わず口から出ていた。木から姿を表す……精霊。ドリアードをおいて他にあるだろうか。 吹き出す魔力の波動か、彼女の髪がゆらゆらと風もないのに揺れている。 今、女性のつま先が木の幹を離れ、ゆっくりと地面へと着地を始めている。やがてつま先が地面に触れると、揺れていた髪が鎮まって体中のオーラが消えた。地に足をつけた女性は緑の衣を着ていることを除けばカオリたちと外見上の違いはほとんど見られない。 カオリは予想だにしなかった邂逅に息を呑んだ。彼女は木の精霊なのだろうか。突如木から姿を現す美しい女性といえばやはりその類だろう。 こちらが何かを話し出す前に、女性は嫣然(えんぜん)と微笑んだ。 「突然呼び出してしまったことをお詫びします、カオリ」