「その花に秘められた能力は植物の欠片を用いることで解放されていきます。もちろん使用者の技術が求められるため、解放されればすぐ使えるというものではありません」 気づけば目の前に映像が映し出されていた。なにもないところにスクリーンよろしく樹形図と文章が浮かび上がっている。しかしカオリにはなにが書かれているかが理解できない。 「すごい、植物の能力ってこんなパワポみたいな図も出せるんですね」 「これは魔法ですね」 「あっ……そうでしたか」 ドリアードは構わず続けた。 「その花は我々の祖先が生み出したもので、使用者による解析の記録が存在しています。もちろんまだすべてが解き明かされたわけではありませんが、ある程度の能力進化はここに記されているのです」 「これって、つまり必要なアイテムをたくさん持つほど、先の能力が開放されて使えるようになるってことですか?」 つまり、貴重な能力を得られるアイテムを入手しても、そこに至るメソッドを通過するためのそれがなければ意味はないということである。 「そうですね。例えばこの図の中心の光はまっさらの状態を表しています。ここに海辺に生息するクリュハムの葉を用いれば、右下へと光が進み、あなたの身体は一定の麻痺耐性を持つことになります。まあ、あなたには必要がなさそうですが」 ドリアードが指差すと、白い光は目的の場所まで移動した。精霊ならば魔力も強いのだろうか。この世界の魔法というものにも関心が湧いた。自分も体得することができるのだろうか? 「必要ない? あ、それより、例えばさっきの変身のような能力もそうやって習得するのですか?」 ドリアードは悠然と頷いた。 「そうなります。ですが、戦闘に役立つほどのそれとなるとまだ先の話ですし、仮に運良くすぐ習得できても、あなた自身が成長しない限りは使うことはできません」 ドリアードの解説によれば、他にも使用者の生命力を高めたりすることも可能らしい。 まるでテレビゲームみたいだとカオリは思った。この図は本当に広い。一番遠くのポイントまで一体どれほどの鍛錬とアイテムが必要になるのやら。 「あの、ところであの一番遠い位置にある光ってなんの能力なんですか」 カオリは右上の端に位置するポイントを指さした。やっぱり、森に眠るエンシェントドラゴンを喚び出して攻撃したりとかだろうか。 「あれですか? あれは変身しても着ている服が修復される能力ですね」 「なんでそんなしょうもない能力がそんなに高レベルなんですか!」 「落ち着いてください、カオリ。こればかりは根源的な話ですから、創造主たる神にしかわかりません」 神? 「あいつなの!? あいつの趣味なの!?」 カオリは立腹して喚いた。なに? これがRPGの世界ならラスボスは神なワケ!? 神に対してタメ口を利いてしまうレベルの怒りだったが、唯一神ではない以上、まだセフィロトのせいとは限らない。でも、あの性悪神ならやりかねない。もしそうならなけなしの信仰心なんて今すぐ捨ててやる。 「お疲れのようですね。真夜中にお呼び出ししてすみませんでした。またなにかあればこちらにひとりでいらしてください。その力を使う以上、自然のエネルギーに接することも必要ですから」 (第2章 終わり)