翌朝。 そのキラービー3匹は陣形を組んでいるように見えた。 しかし実際には攻め入ることに抵抗があり、こちらの動きを窺(うかが)っているに過ぎない。 マックレア・ソードウェルは大剣・グラフツァートセイバーを真っ直ぐに構え、突撃の姿勢を取る。大剣は剣の一種だが、主に斬るよりも打撃に近い攻撃方法を取る。 重装備で防御の要となるマックレアにとって、浮遊するキラービーは決して相性のいい相手ではない。しかしここは叩き斬るのみ。 マックレアは睨みつけて敵を威嚇した。羽音にもキラービーの怯えが混じっている気がしてくる。 「覚悟ぉーっ!」 今鋒(きっさき)を前に突進する。 しかしマックレアが走り出すなり背後から飛んでくる火球の数々。頭上を高熱源が通り過ぎていき、火傷しそうになって思わず身体を屈めた。 あまりの数にあえなくぶつかって羽から燃え落ちていくキラービーたち。火の球は道路の左右の草むらも黒く焦がして早朝の空に爆音を響かせた。 マックレアは重い鎧をまとったまま振り向く。 「コラーっエレーナ! この程度の相手に広範囲魔法をぶっぱなすなと言っているだろう!」 がなるマックレア。しかし呼ばれた魔術師エレーナ・ミルフレアは悪びれた様子もなく結った紫色の長い髪をいじって枝毛を探している。 あまりにも“アンマリ”な反応にマックレアは歩を詰めてきて彼女をなじった。 「お前なぁー! 王国の依頼だぞ。少しは考えろ!」 身にまとった青いローブの肩口にあしらわれたスィメア王国の紋章が泣いている。 「重鎧(ヘビーアーマー)のあなたに素早い動きは無理でしょ。時間がもったいないから一網打尽にしただけよ」 「お前、付き合い長いからって俺のことナメてるだろーっ!」 銀髪の騎士は眉間に皺を寄せて険しい顔つきを見せた。マックレアとエレーナは同郷であり、出会ってから10年以上の付き合いである。 エレーナは幼少期から類稀(たぐいまれ)な魔法の才を持っており、王国の魔術師としてあっという間に採用されてしまった。 しかし昔から気まぐれで面倒事の嫌いな性格であり、いい加減な国王の存在も手伝ってやることなすこと大雑把にしてしまう問題児となってしまっている。 しかし普段はまだマシで、最低限の働きは見せて立場を確立している要領のよさがある(そんなところがマックレアにとってますます業腹(ごうはら)でもあった)。だが付き合いが長く同期の騎士として働くマックレアにはそんな性格は隠そうともしない。 そのくせオシャレには気を遣っており、男性陣の第一印象はすこぶる良い。おかげでついた呼び名は「黙っていれば美人」。華奢な身体とストレートの髪は確かに優美だが、こんな性格をよく知っているぶんマックレアにとって、彼女がルックスを褒められることは癪に障るのであった。 ちなみにこの女王様キャラが一部の層にウケ、王宮の騎士にはファンもちらほらいる。いつかあいつらに鉄拳制裁を食らわせたい。 しかし肝心の王が彼女を気に入っている以上は……。 「そんなことよりメルクマンサ村はもうすぐなんでしょ。はい、きびきび動きなさい」 「言われなくてもわかっている」 どうしてこんな女を同伴させたのですか、王。 堅苦しい城の空気が嫌でエレーナ本人が志願したような気もしないではないが。 マックレアはエレーナを一瞥(いちべつ)するが、すでにこちらを見ていたエレーナと視線がかち合う。 「なに?」 「別に」 「なにそれ」 二人旅はまだ始まったばかりである。 (第3章 終わり)