早朝。メルクマンサ自警団本部にて。 マックレアとエレーナは自警団の代表の応対を受けていた。 自警団本部と言っても、民家を少し大きくした程度の建物で、一般的な木造のそれとさして変わらない。 扉を開けると受付に慇懃(いんぎん)そうな若い男性がおり、彼に声をかけると会議室へ通された。 会議室も大きな円卓が置いてあること、申し訳程度の団体資料が置いてあること以外には特に目を引くものはない。 円卓の席についていた男が立ち上がると、マックレアに向かって目礼した。 「王国騎士団から参りましたマックレア・ソードウェルです。そしてこちらが同じくエレーナ・ミルフレア」 マックレアが敬礼すると、エレーナは深々と頭を下げた。 「エレーナと申します。以後お見知りおきを」 面を上げると彼女は満面の笑みを浮かべており、マックレアはエレーナの世渡りのそつなさに半ば呆れを感じていた。簡単な所作ひとつでここまで色香を撒き散らせるものか。 「遠方までようこそおいでくださいました。私はライノス・ミンゼイ。このメルクマンサ村自警団の団長を務めております」 自警団のライノスも負けじと腰が低い。 立場でいえば騎士団の方が上なのだが、わざわざ高圧的に出て恨みを買う必要などない。ましてこちらは騎士団から若手2人だけの派遣である。王国としてはすでに「田舎町など軽んじている」と睨まれていても文句は言えないだろう。 もっとも国内には王をして「昼行灯」などという不届き者も数多い。無礼なのはお互いさまだが、直属の部下としては共感の気持ちもないではない。 「さっそくですが、この辺りに奇妙なことが起こっていると聞き、馳せ参じました」 ライノスは顎髭を擦り、僅かに表情を曇らせた。第一印象だが、普段なら気風(きっぷ)が良く、人好かれしそうな雰囲気の男である。 「はい、村と森に周辺では見かけない魔物が何度も現れておりまして。いずれも滅多に人間に牙を向く魔物ではないものですから、何者かの意図を感じましてね」 マックレアは事前連絡のあった魔物たちの名前を思い浮かべた。メルクマンサどころか、王都でも見かけぬものたちである。 「どう思う? エレーナ」 「もちろん、魔物の使役が行われている可能性は疑うべきでしょう。魔物を魔力で以て操る術は決して行儀のいいことではありません。その手の術を使うことを禁じていない邪教集団が暗躍している場合もあり得るでしょうね」 それは誰もが考えることであった。しかしメルクマンサ村には魔術に精通するものがいないため、これまで確証が得られなかったようだ。こうして専門家のエレーナの一声が入ったことで、怪しげな集団の陰謀の可能性が一気に首をもたげてくることになった。 「なるほど、こんな田舎の村を狙ってなにがしたいのでしょうな」 ライノスはそう言うが、かつてこの村が狙われた前例ならある。そもそも某(なにがし)かの目的があるのなら、密かに力を蓄える場所としてはこの村はもってこいなのである。この村と森に押し入った国家転覆を目論む勢力、その者たちが欲していたのは豊富な資源と隠れ家としての立地だったはずだ。当時は祟り騒ぎで撤退したと言われるが、今回もそれと同じ展開ならば、今後どうなるかわかったものではない。 「あくまで可能性の話ですよ。例えば新型の呪術実験を行う者たちが近所に潜んでいると考えた方がまだ自然です」 「どのみち不穏な話に違いはありませんな」 呪術実験か……。 マックレアは口元に指をあてた。 「アンチセフィロト(セフィロト背教者)の連中か?(*1)」 エレーナは首を縦に振った。 「あり得る話だわ。最近も聖騎士と衝突して逃げ延びた勢力がいたって話だし」 「まあまだ仮説の段階ですな。早合点は禁物です」 ライノスは咳払いする。 まさしく彼の言う通りであった。 「ではライノスさん、もしそれらのモンスターの死骸などが残っていれば確認をさせていただきますか?」 (*1・・・「セフィロト教の教えに背いた者たち」ぐらいの大雑把な括りであり、その名前の団体が存在するわけではない)