静寂。 気付けば何も聞こえてこなくなっていた。 痛みも感じない。 即死すると痛みすら感じないものなのだろうか。そう言えば最初に死んだ時のこともあんまり覚えていないや。 カオリは閉じた瞼(まぶた)の裏で眼前の世界を見通していた。 外の世界は白い。いつか見たセフィロトの世界に似ている。カラーリング的には天国だろうか。そんなに悪いことはしていないしね。 それにしても転生者は死ぬとどこにいくのだろう。元の世界の天国か、転生世界の輪廻の輪のなかか。 形而上学(けいじじょうがく)的な問いに解は与えられそうもないが、カオリはためらいがちに目を開いた。 目の前には巨木が聳(そび)えている。 しかし靄のようなものがかかっており、木の上部や空の果てまでは視界が及ばない。 これは天国ではないのかもしれない。なぜならあの日、セフィロトに転生を言い渡されたシチュエーションにあまりにも酷似していたためだ。 「ようやくここが2度目の死後の世界でないと気づいたようだね」 「えっ……?」 カオリは見えないとわかっているのに空を見上げた。この木はどこまでも高く伸びている。 「あんまりだねぇカオリちゃん。僕のことを夢だと思っていたなんてショックだよ。その調子じゃ、僕が与えた能力のことも忘れてるんだろうね」 「与えられた能力……?」 「そうさ」 靄のなかを突き抜けて降ってくるセフィロトの声。神を名乗ってはいるが、その口ぶりでは軽佻浮薄(けいちょうふはく)な印象が拭えない。 「まあ転生を夢だと勘違いする子はこれまでにもいたからね。君の能力が発揮されそうって時にはこうやって記憶を呼び覚ます仕掛けをしておいたんだよ」 「能力が発揮されそう?」 「そうさ。言ってみればトリガーだね。君の能力が君自身の危険を引き金にして発動するものだったから、今僕の声が聞こえているわけ。窮地に追い込まれて強くなる。剣道の使い手の君にはピッタリでしょ?」 なに言ってるのこのスケベ神。 「あっ、今エロ神って思ったね? 例の裸になるのを防ぐ能力の件は僕の趣味じゃないからね」 「そーですか」 カオリはぷいと目を逸らした。信じられるものか。 「まあいいけどさ。そんなことより今は目の前の敵を倒すことに集中して。機会は一度きりだよ。剣を片手に、今から言う通りに念じるんだ。大丈夫、慣れればいずれ追いつめられなくても使えるようになるか……」 「ちょっと待って。もしかして今は時が止まっているだけで、まだラヴィッジウルフとの戦いは終わってないの?」 「あらら。まだ気づいてなかったの? カオリちゃん気付くの遅いね」 アハハハハとセフィロトの笑い声が谺(こだま)する。上天に大きく響き渡るゆえ、こちらの惨めさも一入(ひとしお)だ。 「さて、そろそろ戻ろうか。君は仲間を助けて生き残るんだよ、カオリちゃん」 靄が濃くなっていく。セフィロトの声はいずこかへ消え、周囲はやがて白に包まれた。