「それでは報告がありますので」 そっけない態度で頭を下げると、ダンクスはそそくさと会議室へ入っていった。 ラーヴェラ厶の屋敷の偵察へ向かったマックレアとエレーナ。道中の案内役を務めたのが例のダンクスという男だ。寡黙で無愛想。しかし戦闘能力は折り紙つきである。 日は暮れかけて、受付の男はいなくなっていた。他に誰もいないことをいいことに、マックレアたちはざっくばらんに会話を始める。 「あのダンクスという男。辺境の自警団に置いておくには惜しいな」 「誰かさんよりしっかりしてそうだしね」 「なぜ俺の顔を見る?」 そう言うと、エレーナは溜め息をついてそっぽを向いてしまった。 「そんなことよりあんなところにラヴィッジウルフが出てきたことの方が心配なんだけど。下手をすれば村がめちゃくちゃになってたわよ」 マックレアは腕を組んで唸った。 「確かにな」 あれはダンクスを伴って屋敷の探索へ向かおうとしたところだった。突然村民の悲鳴が聞こえ、マックレアたちは村の門まで向かった。 そこにはラヴィッジウルフが2体。ラヴィッジウルフはまさしく近隣の生態系を無視したモンスターであり、ディットンズウルフやリザードマンとは格が違う。 3人の協力もあり難なく突破することができたが、これ以上の数になると対応に苦慮したに違いない。 「やはり我々だけで屋敷のなかも調査すべきだったか」 屋敷には明らかに誰かが出入りした形跡があった。人も、モンスターも。 しかし直前に登場したラヴィッジウルフを思うと、突入人数には不安が残る。ダンクスが一度村に戻るべきだと提案したためになかの捜索は断念して帰還する運びとなった。今思えば彼の立場からは戻るのが正解だったのだろう。 「私はあの人に賛成。早く王都に応援を寄越してもらった方がいいかもよ。どうせ連中も暇でしょ」 「お前、自分もその連中のひとりってわかってて言ってるか?」 お前が一番暇そうだろうが。マックレアは心のなかで毒づく。 「取りあえず、何を解き放ってくるかわからないのよ? どこかのドラゴンとか、上級悪魔とか、ヤバいのを召喚してくる可能性だってあるんだからね」 「ちょっと待て、召喚だと? つまり、あいつらみんなどこかから喚び出されてきてるってことか?」 「そう考えた方が平仄(ひょうそく)が合うのよ。召喚して、使役して。これなら遠方のモンスターが出てくることにも納得でしょう。召喚だって大規模なものには相応のスペースが必要なのよ」 「そうは言うが」 そうは言うが。マックレアは言いかけて黙る。召喚術自体が通常の魔法と比べて一般的とは言い難い。規模の大きいクラノス王国などの五大勢力に属する魔術師ならばともかく、少なくともスィメアでは見かけない。納得がいかなかったが、高位の呪術の使用者ならば召喚術を体得していても不思議ではないものなのだろうか。 「カオリ、ソフィア、ただいま戻りましたー」 すると重苦しい話題を吹き飛ばすような明るい声が響いてきた。