国の人間たちが「眠れる森」と呼ぶメルクマンサの森の奥深く。 空から光が降り注いでいた。天文には詳しくないが、おそらく地球世界で言うところの月だろう。 「なるほど、そんなことがありましたか」 ラヴィッジウルフ襲撃の日の夜。空からの光が降り注ぐ池面(いけも)の傍にはカオリとドリアードがいた。再びドリアードを訪ねたカオリだが、他の人の目を盗む必要があったため、再訪は深更(しんこう)に及んでいた。 ドリアードはカオリからの報告が終わると、額から手を離した。 「それでなにがわかるんですか?」 先ほどからドリアードはカオリの額に手を当てると、何かを感じ取ろうとするように瞼を閉じていた。 「あなたの疲弊がどれほどか見ていたのです。植物を操る力は、その生命エネルギーが溢れる場所ならば力の消費は少なく済みますが、この森を出てしまえば徐々にその力の消費は激しくなります。特に高度な能力を使えばなおさらです」 「その消費というのはなんなのですか? 魔力ではないのですか?」 ドリアードは首を横に振る。今思えば首肯の動作は精霊にも共通しているようだ。ただカオリに合わせて人間の姿をしているからなのか、あるいはこの形状の体では首肯の動作にはある程度合理性があるのか。 「少し違います。我々も似た概念の存在からその呼び名を複雑にしてしまっているところがあります。ですからわかりやすく言い換えるならばあなたのなかの“気“です」 「気?」 両手から光線を放ったり、空を飛んだり瞬間移動したりできるのだろうか。カオリは一瞬どうでもいいことを考えた。 「ええ。植物の生命エネルギーを増幅させる力は、他の自然の力を借りて行います。しかしそのエネルギーが充分でない場合、あなたの力でそれを補填することになります。例えば人間の作る建物のなかなどでは消費も強くなりがちです。使用にはくれぐれも注意してください。もし気を消費し過ぎた時は、ここのような場所に戻ってくればその回復も早いはずです」 数秒の沈黙。 それにしても、とドリアードは続けた。 「カオリ、なにか雰囲気が変わりましたね。この花飾りが吸収するもの以外のところで、なにか特殊な能力を得ましたか?」 「はい、セフィ……神様が不思議な能力を与えてくれたのです。それでラヴィッジウルフも倒せました」 その時のドリアードの不思議そうな顔は、今も忘れることができない。しかしそれはまた別の話である。 「それより、おそらく明日にもその屋敷に忍び込むことになると思います。それで、能力の使い方について相談したいことがあります」 ドリアードは考え込むような表情をしている。人の姿をしていても精霊は精霊であり、人智を超えたなにかを感じた。 「わかりました。しかし、おそらくその者の匿っているモンスターたちはこれまでのものたちよりも強力なはずです。戦わずして躱す方法を身につけてください。いいですね?」