曇り空だった。 これがドラマなら、緊迫したシーンを盛り上げるために曇りの日を撮影に選ぶことだろう。そんなことを考えていると、この1週間と少しの異世界ライフは長い長い夢だったのではと思えてくる。 しかし頬をつねってみても、頭を小突いてみても、夢から覚める様子はない。 はぁぁ。 カオリは顔を伏せて欠伸をひとつする。早朝からある植物を採取しに行っていたため、大仕事の前にも拘らず眠気がした。 屋敷は高い壁に囲まれて、鉄製の棒を重ねた瀟洒(しょうしゃ)な扉を設えていた。 建物は2階建てだがなかなかの広さで、庭も障害物を取り除けばサッカーの試合ができそうなほど広い。 「悪趣味なもんだな」 ダンクスはヤクザ張りの睨みを利かせて屋敷を見ている。この目つきだけ見ると嫁が来ないのも納得してしまう。 「ダンクスさん。我々の目的は飽くまで偵察です。よほどの好機でない限り対象の排除はしないでください」 一見マックレアが諌めているように見えるが、彼の握る大剣(*2)には力が入っていた。 「カオリさん、あなたは下がっていてください。スィメアの国の民は騎士である私がお守りします」 マックレアはカオリを振り返ると、カオリの両肩に手をのせてそう言い切った。 「は、はぁ……」 なんていうかこの人。熱い人だなぁ……。 「はいはい、あんたそんなデカい鎧着て屋敷のなかで足引っ張らないでね」 エレーナは不機嫌な眼差しでマックレアを射抜く。マックレアは不意に向けられたその表情に慌てふためいている。 なんでこの人怒ってるんだろうか? というか、いつもこの人機嫌が悪い気がする。 「先ほど悪漢めいた男がふたり屋敷に入っていきましたが、装備から見ても背教者集団には見えませんでしたね」 デコボコの面子のなかで、ソフィアが淡々と状況をまとめ始めた。みんな気が立っているのかもしれない。 「もしあの方たちが今回の事件の首謀者の協力者だとしたら、敵はそこまで強大ではなさそうですね」 「えっ? ソフィアどうして?」 「背教者の残党ーーまだ確定はしていませんがほぼ間違いはないでしょうーーがどこまでの数かわからないからですよ、カオリさん。先の聖騎士とのいざこざで、スィメア国に何人かのアンチセフィロトたちが忍び込んだという報告がありましたが、教団を逃れたかれらはいずれも一定以上の魔術の素養があったとされますから、よほど頭数に不安がない限り、わざわざどこの馬の骨ともわからない男たちを雇って仲間に入れる必要がないのですよ」 「なるほど」 おそらく違法に国境を越えてきたであろう人たちがおおっぴらに生活できるとは思えないから、人数を問わず地元の人間に協力者は必要だろう。しかしかれらは武器を持っていたし、戦闘員の役割を果たしていることは想像に難くない。それに身元不定の女が辺境の村で生活できている以上、その考えも弱い気がした。 「あくまで“その可能性が高い”ぐらいのものでしょうね。もっとも大勢有能な術者がいるのなら、今までのセコいやり方なんてしなかったでしょうけど」 「まあつまり、油断しなけりゃ勝機はあるってことですかな」 ダンクスが戦斧の柄を肩に引っ掛けた。 「それは魔物が無力化されていればの話です。すでに強力な魔物が隷従されて屋敷のなかにいれば充分危険ですよ」 ダンクスはソフィアの忠告に鼻白んだ様子だった。しかしふっと笑いをこぼすとこう言い足した。 「そうだったな。期待してるぞ、ソフィア、カオリ」 *2大剣・・・マックレアの装備しているのは打撃に特化した大剣だが、『転生してまで死にたくないので、不死者になりました』の区分ではあくまで剣のカテゴリーである。