5人全員で2階を回ることになったが、結局裕福だった男の豪邸の有様を見せつけられただけで、得るものはなかった。 この建物はロの字型になっており、中央部には中庭がある。まだ1階は確認していない段階だったが、ここに地下室への入り口があってもおかしくないように思われた。 階段を上がる際にモンスターの足跡も見られ、ここにモンスターを連れ込んでいることはほぼ確定した。しかし今もって未だに人の気配すらしない。よほど用心深いのだろうか。 5人は1階も見て回ったが、誰かがいた痕跡こそ見つかるものの誰ひとり発見できなかった。もしかして全員で大きな勘違いをしていたのか? そんな考えが頭をもたげたが、最後に中庭を訪れるとすべての謎が氷解した。 「やっぱりここか。意外と古典的な仕掛けだな」 中庭にはそれなりの広さがあり、四方にかぎ括弧のかたちに緑が植えられていた。あくまで当時の話であり、今ではその意図を汲み取るのが限界といった具合にあちこちに蔓が伸びていた。 その中庭の中央に木の板で塞いだ隠し階段が見つかった。芝生もかけられておらず、中庭に入ればひと目でわかってしまうだろう。 しかし眠れる森の緑でわかる通り、スィメア国メルクマンサエリアは多雨地帯である。なかはそうとうに黴臭そうだ。 ダンクスとエレーナが意見を交換し合っているのを見ていると、マックレアと目があった。 「ずいぶんと軽装なのですね。いえ、その刺繍のお召し物はとても似合っていますが」 マックレアがカオリに尋ねる。 「はい。ちょっと事情がありまして」 この服は転生時に着ていたボヘミアンワンピースである。行商の人間に聞く限り、これぐらいならば専門家に頼めば新しく作り直すことも可能らしい。しかしできる限り大切にしたいと思っている。 「あなたは……その、本当にお美しい。ご安心ください。魔物が出てきても私がいる限りカオリさんには指一本触れさせま……あの、カオリさん?」 ここに中庭があったことは僥倖(ぎょうこう)だった。緑があるこの場所ならば大勢が地下室から這い出てきても対策が容易である。 しかし安全策を取るならばやはりひとりで動くしかない。 「カオリさん?」 マックレアの呼び声がして、カオリは我に返った。 「あ、はい。すみません、ちょっと考えごとをしていました。で、なんの話でしたっけ?」 「……いえ、なんでもないです」 「静かに。声がするぞ」 ダンクスが木の板を上げて地下に耳をすませていた。カオリらには聞こえないが、なかに誰かがいるのは明らかなようだ。 「唸り声。これはディットンズウルフか。間違いない。なかでなにかしてやがるぞ」 全員が顔を合わせた。「どうする?」という意思の確認作業だった。しかしいずれの表情にも退くという選択肢は見当たらない。 残る問題は敵の実力のほどである。 「静かに入り込もう。魔物を刺激するわけにはいかないからな」