「世迷いごとはそれで全部かしら?」 ヒュルデンの語りが終わると、エレーナが口を開いた。さもつまらないと言わんばかりに、優雅に結った髪を払う。 「あんたがいい歳して潔癖ってことはよくわかったぜ」 とダンクス。 くだらない。本当にくだらない。破壊や殺害の理由なんていうのは大抵納得のいかない理解不能なものである。 「あなたの信仰はあなたの信仰です。無関係の村民を危険に晒す理由にはなり得ません」 「そうだ。そんな詭弁で私欲が正当化されるなどと思うな!」 ヒュルデンは鼻で笑った。 「やれやれ若者は正義に燃えていますね。まあ詭弁であることは認めましょう。私自身、大義名分など求めてはいませんからね」 そう言うとヒュルデンは右手の杖を構えた。 「仕方ありませんね。エンドー、あなたはドマーとともに逃げた娘を探しなさい。私はそろそろ例の魔物を試してみます」 無言で壁にもたれかかっていた男は、静かに立ち上がって部屋を出ようとする。同時にヒュルデンの杖の宝石が光を放ち出した。 「待て!」 エンドーの前にマックレアが立ちはだかる。今にも斬りかかりかねない形相だ。守りの要である重装備の騎士には望ましくない状況だ。 「おや、騎士のあなたがよそ見をしていていいのですか? この魔物は少々手強いですよ」 ダンクスたちは突然白い光に包まれた。一瞬幻覚を見せられたのかと思ったが、その光はヒュルデンのかざした杖のまばゆい輝きのせいだった。そのことにダンクスが気づくのはずいぶん後のことであるが。 光が止む寸前、長い首の化け物の影が見えた。地下という閉塞的な空間にそぐわない大きな翼すら持ち合わせている。それがいかに恐ろしい魔物であるか、その時点でほぼすべて予想できてしまっていた。 「さあ見なさい。これがこの使役の杖の本当の力です」 (第5章 終わり)