カオリが再び地下へ戻ろうとすると、階段を登ってくる人間の足音がした。誰だろう? ダンクス? ソフィア? 地下から現れたのはグレーのローブの男だった。顔面に傷を負った細身な男である。かれは敵なのか? 男は左、右と視線をきょろきょろさせる。 「おや、ドマーとエンドーは倒されてしまいましたか。まあいいでしょう」 この声……! 同じだ。ディットンズウルフを放てと言った男と。 カオリは剣を上段に構えて臨戦態勢を取る。 「あなたでしょう? 今回の一件の黒幕は」 「もう過ぎたことです。忘れなさい。私は急いでいるのです」 「こっちは用があるんだから!」 カオリの右手が白く光る。地下から出てきたということはダンクスやマックレアたちを相手にしても逃げおおせたということだ。並大抵の相手ではない。 「残念ながらあなたの相手をしている暇はないのですよ」 男は2本の指で五芒星を描くと、その軌跡が描いた紋章から放水の魔法を放った。 まともな詠唱なく放ったにもかかわらず、すさまじい水圧が襲ってくる。カオリは即席のウッドシールドで攻撃を防ぐが、水が止むころになるとローブの男はすでに逃げ始めていた。 「待ちなさい!」 カオリは追いかけようと走り出す。カオリは再び右手を光らせる。それを見た男がまたも指で紋章を描き始めた。 「ヴァインシュート!」 走りながら放つ蔓の鞭。男を巻き付けて捕える作戦だった。しかし男の魔法のスピードは速く、水砲がカオリを襲う。慌てて身を躱したカオリだが、突然の路線変更で木の根っこに躓(つまず)いてしまう。 「きゃあっ!」 転倒して進行方向のずれた蔓は近隣の木の幹に巻きついてこちらへ戻ってくる。皮肉にも蔓が巻きついたせいでカオリの身体は転ばずに斜めのままで静止する。 両腕を体につけたままの状態で蔓で縛られてしまい、身動きが取れない。 それを見た男は高笑いをした。 「フハハハハ! 身の丈に合わない能力を使うからそうなるのですよ」 男はひとしきり笑うと、そのまま逃走を再開する。 「待ちなさい!」 カオリが叫んだ。待てと言われて待つものはいない。しかしローブの男は振り返った。 そして黙ったまま自然のロープに縛られたカオリを見つめている。 「なに……?」 嫌な予感がする。 「あなたは面妖な術を使いますね。おもしろい。いっしょに来てもらいましょうか」