「ほら、きびきび歩きなさいよ鈍足戦士」 「痛っ! お前な。いきなり杖で殴るんじゃない!」 後ろから歩いてくる不機嫌女を振り返るとマックレアががなった。こいつには本当にいつもいつも腹が立つ。 「いつまでもあの子のことばっかり考えて腑抜けた顔してるからでしょ!」 街道を行く旅の者たちがふたりを見ては呆れた顔をしている。呆れられているとわかっていてもふたりの諍(いさか)いは終わらない。 「俺がいつカオリさんのこと考えてるって言った!?」 エレーナが溜め息を漏らす。「あんたね、丸わかりよ」というつぶやきがはっきり聞き取れる。 「そんなことより早く歩きなさい。あんたと野宿なんて誓って嫌だからね」 エレーナは腕を組み、あさっての方向を向いている。 「当たり前だ! お前を置いてでも俺は街までたどり着いて宿を取るからな」 「サイテー! アンタそれでも本当に男? 王国の騎士?」 「お前以外の国民と女性には優しいんだよ。カオリさんとかな」 「まーたカオリさんカオリさんって! あんたもうあの村に戻って一生田舎で暮らしなさい!」 「あーその前にお前の悪事を全部王国で白日のもとに晒してからな」 「はぁーちょっと待ちなさいよ! 私が何をしたって言うの?」 「知ってるんだよお前がやらかしたことは全部な」 「あーもうムカつく覚悟しなさい」 エレーナは杖を振りかざして火の魔法の詠唱に入る。 しかしマックレアも盾を展開して防御体勢である。 「お前の魔法の腕は認めるが、この盾の防御を貫くことはできない」 「やってみる?」 「望むところだ!」 この時起こしたボヤ騒ぎで、王国に帰ったふたりがさんざん絞られたことは言うまでもない。