そこは暗い街道であった。 黒いローブの男が3人、大柄な男を前にひれ伏していた。祭り上げられた大柄な男も漆黒のローブに身を包んでいるが、まとったオーラにはただならぬものがあった。 もし通りかかった者がいたとして、かれらがただの上下関係にあるとは思わなかっただろう。例えるなら司祭と顕現した神。いや、神と呼ぶにはあまりに禍々しい。ローブからはみ出た2本の角は、かれが悪魔の眷属であることを報せていた。 「ほう、これはおもしろい杖じゃないか。こんなものを教団が持っていたとはな」 大男は黒鉄の杖を矯めつ眇めつすると、満足そうに笑みをこぼした。それが魔具であることが嘘のようだ。メイスよろしく無機質であり、詠唱しながら構えるには少し大きい。 「あっ、あん、た……なにをすっ……るつも……」 ひとり前に出て頭を下げていた男ががくがくと震えながら面を上げる。しかし大男が右手の人差し指を向けただけで再びその顔が地を舐めた。彼らはひれ伏しているのではなく、地面に押さえつけられていた。 「見上げた根性だな。まあいい、この杖はいただいておく。代わりといっちゃあなんだが、命だけは取らないでおいてやる」 「まっ、待ってくれ! その杖は!」 再び前列の男が悲鳴を上げる。しかし今度は顔すらも上がらない。 2本角の男はそのさまに一瞥をくれると、空いた右手に力を込めた。掌中に黒い波動が膨れ上がる。やがてそれは振動と鈍い光を放ち始め、果実の皮が剥かれるように紐状となって土下座状態の男の首元へ伸びていく。 「ぐっ、ぐがあぁっぐはっぐぐあっ!!」 声にならない悲鳴を上げ、男は透明な糸に首を括られた人形のように軽々と宙に浮かんだ。 「お前はアンチセフィロトだってんだろう? 黙っていりゃ命までは取らねぇって言ってんだよ。ああっ!?」 杖を手にした悪魔が凄むと、宙に浮いていた男が後方へ放り出された。呪縛が解かれたのか、動けなくなっていた背後のふたりの真上に落下してのたうちまわると、喘鳴を響かせたままやがて気を失った。 「あっ、あんた一体何者だ!? 悪魔の手先か!?」 悪魔はローブのフードを脱ぐと、自由の身となったひとりに憐憫の眼差しを向けた。暗がりで顔まではよく見えないが、その視線を受けるなり最後のひとりは一目散に逃げていった。 「哀れな想像力だな。まあいい、覚えておけ。俺は……」