「ふむ。やはりダメか」 マックレア・ソードウェルは口元に指を当てたまま唸った。 マックレアは手紙を手にしている。これは騎士団参加を依頼する文書だ。公的なものであることを示すために大時代にも羊皮紙を利用している。送付した相手はダンクス・ランガーハイト。先の背教者事件で功を挙げた小さな村の自警団員である。何度も戦闘を共にしたわけではないがダンクスの戦闘能力は突出していた。マックレアの所属するスィメア騎士団にも彼と同じ斧使いはいるが、彼より優れた者の名を挙げることはできない。 スィメア国王直々の命令ならば強制力もあるのだが(おそらくあると思いたい)、騎士団に関心の低い現行の主君がそこまでするとは考え難い。そんなわけで期待の新戦力にも相手にされなかったのだ。 「しかし惜しいな」 マックレアは深い溜め息を漏らした。 「さっきからなに溜め息ついてんの? 後ろ向きね。そんなんじゃ幸せみんな逃げてっちゃうわよ」 王宮魔術師のエレーナがマックレアの肩を右肘で小突く。 「お前がいる限り俺に幸せは訪れんさ」 「あんたケンカ売ってる?」 エレーナは眉間にシワを寄せてマックレアを睨んだ。一応これでも王宮騎士団が誇る美女と呼ばれている。しかしルックスはよくても性格は0点である。幼馴染が外見だけで人気を得ていく様はマックレアにとって業腹な話でしかない。 「城内で火は使わない。それを守れるようになったとは成長したな」 「あんたにしか使ってないって」 余談だがエレーナは火の魔法の使い手である。ケンカになるとすぐ杖先から火花が散る。 「やはり直接メルクマンサまで行ってスカウトしてくるしかないか」 「ご執心ね。本当はあのカオリって子に会いたいだけじゃないの?」 カオリ。そう、カオリ・キサキ。なんという甘美な響きだろう。牧歌的な農村に場違いの可憐な花。ひと目見たときの衝撃は忘れることができない。あれほどの美女が王都にいたならば、すぐさま噂が広まって国外にすら及んでいくことだろう。 「まあ、カオリさんほどの美女ならば男はみんな会いたいと願うだろう」 「アホらし。美人となるとすぐ寄ってくんだから男ってほんとバカね」 エレーナは急に辛辣な言葉を放つ。なぜここまでカオリのことを嫌うのだろうか。 「それよりマックレア。あんた今から会議だったでしょ? 武具計画の」 その時マックレアはようやく身体を後ろに向けた。 「ああ、そうだったな。行ってくるよ」 マックレアは軽い身体を持ち上げて立ち上がった。このところ甲冑に身を包んでいることが多く、自分の体重が大きく減ってしまったような錯覚に陥る。 「七大武具計画。あの昼行灯王にしてはめずらしく好戦的なプランよね」 「口を慎めエレーナ」 王のお気に入りで取り立ててもらっているくせに昼行灯呼ばわりとは。 「すべての武具が完成するまでにあと七百日はかかるらしい。そんな悠長なことができるのも辺境の地ゆえの特権か」 スィメア七大武具計画。戦争や紛争とは無縁な辺境国スィメアにおいて、めずらしく俎上に上がってきた軍事的な国家計画である。 国が持つ最高峰の知識と技術を用いて、戦況を一変させるほどの武器や防具を開発する。不謹慎ながらその発端と影響は背教者事件の首謀者ヒュルデン・ロマンサーの持ち込んだ使役の杖にある。たった数振りの武器であれ、それを持つ者に素質さえあれば、圧倒的な戦力とすることができる。まだ詳細は詰められていないが、今回生み出されるのは七つの武器・防具だ。完成した暁には最高の騎士や術師に与えられる誉れとなることだろう。 武具のなかには斧も入っている。しかしその栄光の武器の使い手はダンクスしか思い浮かばないのであった。