重力に耐えられなくなった植物は、やがて崖の方へ向かって倒れた。 カオリは慌てて下に飛び降りると、その様を見やった。まるで大木が転倒するように周囲が揺れた。茎の先の部分が崖の方へせり出している。よく見ればその先にはピンク色の花が咲いていた。最後の最後に開花したらしい。 カオリは刀を地に突き刺すと、崖に向かって歩き出した。 やはり薔薇に似ている。囲うように巻きついた花びら。艶やかな赤に染めればまさしく「それ」である。 しかし巨大になり過ぎたそれは、茎の太さがカオリの肩ぐらいまである。 脆弱で儚い。本当はそれこそが花の美しさなのだろうか。 崖の端まで来ると、その大輪まであと少しだった。カオリはそのひとひらを手に入れようと手を伸ばした。あと少し、あと少し。 もっと身を乗り出さないと届かない。谷とはいえそこまで深いものではない。仮に落ちてしまってもヴァインシュートなどを使えばいくらでもリカバリは利くはずだ。余裕からか、カオリは茎に寄り添いながら崖から手を伸ばした。 ビリッ。 「えっ?」 花びらはギリギリ手中に収まらず、カオリの身体は急転直下していく。 いや、墜落だけならなんとでもなる。そんなことより今の音はなんだろう? 腰の辺りに棘が擦れたのだろうか。 慌ててカオリは自分の腰に触れた。そこはじんわり温かい自身の肌だった。 ちょっと待って……なんで? 崖から落下するその瞬間、冷静な頭で考えた。そう言えば、魔人の白刃が掠ったのはどこだった? ……腰だ。今剣道着を着ているのだから、それは帯の位置である。古びた剣道着で防具はなし。むしろ、なぜ破けなかったのか不思議なくらいである。しかしそこに鋭利な棘が引っかかれば……。 道着の右袖が脱げてしまい、左袖に皺がよってなんとかカオリの身体に留まっている。しかし、崖の途中に生えた枯れ木に引っかかり、それも置いてけぼりを食らった。 カオリは恐るおそる下を見た。 うん、覚えてる……。 店を飛び出る瞬間に交わしたナーナイさんとの会話。 「ちょっとカオリ、服はどうするの?」 「後で取りに来ますから置いておいてもらえませんか?」 「いや、それはわかるけど、あんた下着つけてないの?」 「はい、うちの道場は今でもそういう決まりなんです」 サンダルはすでにどこかへ飛んでいってしまっている。 つまり……。 自分でも驚くほど美しい裸体があった。私ってこんなに胸大きかっただろうか……? って……。 「どうしていつもこうなるのー!!! いやぁぁぁぁぁぁぁ!!」