「おーい、カオリー!」 呼名が谷に響き渡った。 返事はない。快晴の渓谷。谷には動物の足音ひとつしていない。 ダンクスは首を傾げた。ソフィアとデオンの証言からここにいたことはわかっているのだが。 ダンクスとソフィアは魔人が出たという崖の下へと降りてきていた。目的はカオリの捜索である。まだ彼女は村に戻ってきていないのだ。 「甕から出た魔人とやらは退けたようだが、カオリは一体どこに行ったんだ?」 「どうなのでしょう。巨大化したリゼの花が谷に向かって倒れていましたし、こっちに落ちてしまったのかと思いましたが」 ソフィアの目が不安そうに瞳孔を揺らしている。別働隊のデオンとクラッカスもこちらに来ているが、ここまで見通しのいい場所では捜索も無意味に思えてくる。 「刀が崖に刺さってたし、あいつ討ち死にでもしたのか?」 「縁起でもないこと言わないでください!」 そう言うとソフィアは額に手を当てて近くにある木にへたり込んだ。先ほどの交戦で魔法を使ったために疲労が溜まっているらしい。 「ソフィア、お前はもう戻っ……」 「えっ!?」 木に凭(もた)れかかるやいなや、ソフィアは驚いて腰を浮かした。驚いた顔で木を振り返ると、幹のそこここを見回している。 「どうした?」 ソフィアは幹の表面を撫でると、首を傾げてこちらに向き直った。 「いえ、今この木が震えた気がしたので」 (第7章 終わり)