そこまで言うと死神は空を見上げた。いつの間にか雨は止んでいた。重々しい雲の切れ間から漆黒に光が差し込んでくる。 死神との邂逅。一体いかほどの人間がそれを果たしているのか。 風は僅かに弱くなったが、今も喘鳴に似た唸りがそこここから響いてくる。 その姿はこれから訪れる大事件の幕開けを暗示していたのだろうか。 アリーファはこの光景を一生涯忘れることはないだろうと思った。 「あの、よろしいでしょうか?」 無言のままの死神に、アリーファは問いかける。 「なんじゃ?」 「悪魔を退治するのは、我々聖騎士の使命です。ぜひ協力させていただけませんか?」 アリーファは胸当ての前で右手を握った。 目的なら同じだ。本来ならば聖騎士としてその任のすべてを引き受けるべきだろう。しかし相手方にも立場があるに違いない。 聖騎士にとって神と呼ぶべき存在はセフィロトのみだ。だが世界の破壊を目論む死神でなければ創造神との繋がりは強いはずである。神の目的に背くのでなければ同胞の行動を止める理由はない。 死神は感情のこもらない目でじっとこちらを見つめている。そのまましばし沈黙を続けると、今度はゆっくりと口を開いた。 「セフィロト神に仕える者ならば止める理由はない。構わぬが、相手はどれほどの悪魔かわからぬ。下手をすれば命を落とすぞ? それでもよいか?」 アリーファは頷く。 答えはすでに決まっていた。神に仕えし者に、逃げるという選択肢はない。 神の御心のままに。 アリーファは黙って心のなかでそう呟いた。 (第8章 終わり)