崖を越え、馬車は長い下り道に入った。ぐらぐらと揺れる荷馬車のカバーの隙間から外を覗くと、大きな街が見える。王都スィメア。ついに到着したのだ。 王都と言ってもアニメやテレビゲームに出てくるようなご立派な城下町ではない。低い建物に地味な木製の家屋、囲まれるように鎮座する城も田舎のショッピングセンターのように小さい。しかしそれでもメルクマンサよりも遙かに栄えている。 「どうした? あんまりしょぼいからがっかりしたか?」 カオリが振り向くと、新調した斧を確かめていたダンクスが自嘲気味に笑った。 「いえ、思ったりよりずっと大きいですよ」 嘘ではなかった。牧歌的な空気が漂う山ばかりのこの国において、これだけの人家が集まっているなら拍手したいくらいだ。 カオリは視線を外に戻す。さすがに国土の半分以上を森が占めているだけあって王都でも木造建築が主流のようだ。 「カオリさんのいた国はもっとたくさん人がいたんですか?」 ソフィアが尋ねる。 3人はふた月前に知り合った行商人の荷馬車に乗せてもらい王都に向かっていた。長旅のせいもあり、ソフィアの目には疲労の色が浮かんでいる。 「そうだね。首都の東京なんて行ったら考えられないくらい人が集まってるよ」 東京は江戸時代にはすでに世界最大クラスの都市だったという。随一の人口に高水準の識字率。きっと世界最大とされるパノプリア王国でも東京ほどの人口はいないだろう。もっとも魔法の存在する世界がどんな発展を遂げるものなのかは想像もつかないが。 「もうそろそろ着きますよ」 行商人は言う。いつか魔物に襲われていたのを助けたお礼にと、片道だけでも馬車に乗せてもらうことができた。 メルクマンサの民は定期的に王都にやってくる。その目的はほとんどが買い物であったり、なんらかの行政手続きである。今回の来訪もそのような些細な理由なのだが、本当の目的は「カオリを一度王都に連れて行こう」というものだった。カオリの社会見学の同伴者はソフィアとダンクスが務めている。 崖沿いの道はだんだんと緩やかになり、見下ろしていた街並みはやがて馬車と同じ高さにまで降りてきた。